きめ つの や い ば うろこ だき。 鬼滅の刃とは

鬼滅の刃 x ラスカル コラボ マイクロファイバータオル 鱗滝左近次 (うろこだき さこんじ) きめつのやいば 鬼滅の刃 グッズ :kmt

きめ つの や い ば うろこ だき

日東 ( にっとう )サルベージ会社の沈没船引きあげのしごとが、 房総 ( ぼうそう )半島の東がわにある 大戸 ( おおと )村の沖あいでおこなわれていました。 その海の底に、東洋汽船会社の千五百トンの貨物船「あしびき丸」が沈没しているのです。 ひと月ほどまえのあらしの晩に、「あしびき丸」は航路をまちがえて、海の中の大きな岩にぶつかり、船の底がやぶれて、そこへしずんだのです。 この沈没船の引きあげをたのまれたサルベージ会社の作業船は、「あしびき丸」のしずんでいる海面に行って、どんなふうにして引きあげたらよいかをしらべるために、まず、ふたりの潜水夫を海の底へおろしました。 あついゴム製の服をきて、まるい鉄のかぶとをかぶり、おもい 鉛 ( なまり )のついたくつをはいて、ふたりの潜水夫は、作業船の外がわについた鉄ばしごを、つたいおり、ブクブクとあわをたてて、青い海の中へ、はいっていきました。 空気を送るくだと、いのち 綱 ( づな )が、グングンのびていきます。 そこは、海の中の岩山のようなところで、大きな岩がもりあがっていて、底はあんがい浅いのです。 水面から三十メートルぐらいで、もう海の底へついてしまいます。 三十メートルもおりると、海の中は夕やみのように暗いので、潜水夫はつよい光の水中電灯をさげています。 電線は、いのち綱にからませて作業船の上につづいているのです。 かれらは、その電灯をふりてらしながら、コンブなどの海草が、人の背よりも高くはえしげって、ヒラヒラと、ゆれている中を、かきわけるようにして進みました。 むこうの方に、どす黒い巨大な怪物のようなものが、ボンヤリ見えています。 それが沈没船なのです。 ふたりの潜水夫は、鉄かぶとのうしろから、 送気管 ( そうきかん )といのち綱を、ゆらゆらとあとに引きながら、その黒い船体へ、近づいていきました。 鉄かぶとについている、まるいガラスののぞきまどの、すぐ前を、いろいろなさかなが、すいすいと泳いでいきます。 大きなサメなどが、ヌーッとあらわれて、鉄かぶとに、ぶつかってくることもあります。 ふたりは、やがて、沈没船にたどりついて、きずついた場所をしらべはじめました。 横だおしになった黒い船体のそばを、ともの方からへさきにむかって、水中電灯をてらしながら、歩いていくのです。 沈没船は、海の底の大きな鉄の家のようでした。 その長い長い鉄の壁にそって歩いていくのです。 しばらく歩くと、先にたっていた潜水夫が、電灯を上下に動かしてあいずをしました。 きずついている場所を見つけたのです。 船の底の鉄板が巨人の舌のようにペロッとめくれて、人間がふたりも通れるほどの大きな穴があいていました。 こんな穴から、水が滝のように流れこんでは、どうすることもできなかったでしょう。 ふたりの潜水夫は、そのやぶれ穴の大きさをはかるために、水中電灯を近づけました。 すると、穴の中から、チラッとのぞいたものがあります。 とっさに、大きなさかなが、いるのではないかとおもいましたが、さかなではありません。 なんだか人間ににているのです。 それも、ふつうの人間ではなくて、おそろしく大きな人間の顔のように感じられました。 しかし、この沈没船には、人間の死体がのこっているはずはないのです。 乗組員はぜんぶ、すくいだされていたからです。 しかも、いまチラッとのぞいたのは、死体の顔ではありません。 いきた人間、いや、人間ににた、へんなものでした。 潜水夫たちは、海の底で、いろいろなおそろしいものに出あっていますから、ちょっとぐらいのことには、おどろかないのですが、いまチラッとのぞいたやつは、なんだか、ひどくうすきみのわるいものでした。 さすがの潜水夫たちも、こわくなってきました。 ふたりは、そこに立ちすくんで、しばらく顔を見あわせていましたが、ひとりが水中電灯の光の前で右手をヒラヒラと動かしました。 ことばのかわりの手まねなのです。 潜水かぶとの中には、電話そうちがあって、作業船の上の人たちと話ができますけれど、潜水夫どうしが電話で話しあうことはできません。 おたがいの手に電線をしかけて、手をにぎりあえば電話が通じるしかけもあるのですが、ふつうは、そういうしかけをしていないのです。 日本の潜水夫は、いまのような、すすんだ潜水服ができないむかしから、海の底にもぐることがじょうずでしたから、水の中で手まねで話すことにも、なれているのです。 ちょうどおしが手まねで話をするように、潜水夫も手まねだけで、なんでも話すことができるのです。 「きみはこわいのか。 」 ひとりの潜水夫の手まねは、そういっていました。 そんなふうにきかれると、いじにも「こわい。 」などとはいえません。 「こわいもんか。 中へはいってみよう。 」 もうひとりの潜水夫が手まねでこたえました。 「きみ、さきにはいれ。 」 「いや、きみの方が、穴に近いじゃないか。 きみ、さきにはいれ。 」 ふたりが、さきをゆずりあっているのは、じつはこわいからです。 しかし、日本の海難救助員が勇敢なことは世界じゅうに知られています。 その日本潜水夫の名誉にかけてもこわいなどとはいえません。 あやしいものを見て、にげだしたことがわかれば、なかまの、もの笑いです。 「それじゃ、手をつないで、いっしょにはいろう。 」 「うん、それがいい。 」 ふたりは、手をつないで、船体のやぶれ穴の中へ、はいってみることになりました。 穴の中は、荷物を入れる大きな部屋のようでしたが、水中電灯の光は、それほどつよくないので、部屋の中のむこうの方はまっ暗で、なにがかくれているかわかりません。 ふたりは、穴のふちをまたいで、すべるように、ふわっと船の中にはいっていきました。 そして、ひどくかたむいている船倉の床を、だんだん、おくの方へ歩いていくのでした。 箱づめや、コモづつみの荷物が、ゴロゴロしています。 かるい荷物は浮きあがって、部屋のてんじょうにくっついています。 また、フワフワと、目の前にただよっているものがあります。 そのあいだを、大きいのや小さいのや、いろいろのさかなが泳ぎまわっているのです。 それが水中電灯のそばに近よると、うろこが、赤みがかった金色や、青みがかった銀色に、キラキラと、うつくしく光るのです。 このふたりは、ながいあいだ潜水夫をやっている人たちでしたから、こういう船倉の中にただよっている人間の死がいも、かずしれず見ていました。 水ぶくれになった死体、もう骨ばかりになった死体など、きみのわるいものには、なれっこになっていたのです。 ですから、さっきチラッとのぞいたやつが、人間の死体でないことは、よくわかっていました。 むろんさかなでもありません。 なんだか、えたいのしれないものでした。 いまにも、むこうの荷物のかげから、さっきのやつが、ヌーッとあらわれるのではないかとおもうと、ものなれた勇敢な潜水夫たちも、気味がわるくて、背中が、ぞくぞくしてきました。 しかし、その船倉の中には、べつにあやしいものも見えません。 一方の壁に船倉からつぎの部屋へ行くドアが、ひらいたままになっています。 そのむこうは、どうやら機関室らしいのです。 「ここへ、はいってみようか。 」 「うん、よかろう。 」 手まねで話しあって、ふたりはそのドアのむこうへ、ふみこんでいきました。 大きな蒸気機関が、よどんだ水の中に、しずまりかえっていました。 機械の死がいというかんじです。 機械でも動いているときは生きているのですから、それが死にたえたようにじっとしているのは、なんとなくぶきみなものです。 じつにふしぎなことが、おこりました。 死んでいる機械の一部分が、ゴトゴト動きだしたのです。 ふたりは、ギョッとして立ちすくみました。 沈没して一ヵ月もたった機械が動きだすはずがないからです。 しかし、じっと見ていますと、機械の一部が、たしかに動いているではありませんか。 そのうちに、機械の一部が、機関をはなれて、スーッと、こちらへただよってくるように見えました。 機械のおばけのようなものです。 ふたりの潜水夫は、鉄かぶとの中で、「ワーッ。 」とさけんで、にげだしました。 両手で水をかきながら、死にものぐるいで、にげだしました。 そのとき、ふたりははっきりと、ばけものの姿を見たのです。 それは、なんともいえない、おそろしいかっこうをしていました。 生きている機械でした。 いや、機械のような生きものでした。 そいつには頭があり、両手があり、それからワニのようなしっぽがありました。 それがみんな、機械のように鉄でできているらしいのです。 黒い鉄の頭は、人間の倍ほどもありました。 ちょうど潜水服の鉄かぶとと、おなじぐらいの大きさです。 その顔に、大きなくぼんだ目がふたつ、海底のうすやみの中でも、ギラギラ光っていました。 口は耳までさけていて、するどい 牙 ( きば )がはえていました。 その怪物は、ふとい鉄の棒のような両手で、「こちらへおいで。 」というような、手まねきをしていましたが、その鉄のゆびのさきには、ワシのようなするどいツメがはえていました。 胴体もしっぽも鉄でできているらしく、背中からしっぽにかけて、鳥のトサカのような、動物のタテガミのような、とんがったギザギザのものが、ずっと、つづいていました。 人間とワニとのあいの子で、しかもそのからだが鉄でできているという、なんともいえない、いやらしい怪物でした。 ふたりの潜水夫は、生きたここちもなく、船倉のやぶれ穴から、外へにげだすと、かぶとの中の電話で、 「たいへんだ。 はやく、引きあげてくれ!」 と、作業船によびかけるのでした。 ふたりの潜水夫が作業船に引きあげられ、海底の怪物のはなしをしますと、それから大さわぎになって、あくる日は、海上自衛隊まで出動して、海底の大捜索がはじめられたのですが、沈没船の中をいくらさがしても、怪物はふたたび、姿をみせませんでした。 そこで、おしまいには、ふたりの潜水夫が、海の底でまぼろしを見たのだろう、ということになってしまいました。 潜水夫たちは、 「あれがまぼろしであって、たまるものか。 われわれは、そいつの姿をはっきり見たのだ。 ふたりがそろって、まぼろしを見るなんてことがあるもんか。 」 と、いいはりましたが、だれも信用してくれません。 ふたりの潜水夫は、それでは、おれたちが、もう一度もぐって、しらべてみるといって、沈没船の中を、くまなくさがしたのですが、二度と怪物に出あうことはできませんでした。 やはり、そのころ、潜水作業のおこなわれていた近くの海岸にある大戸村に、ふしぎなことがおこっていました。 大戸村は漁師ばかりのすんでいる、さびしい村でしたが、その村の漁師の子に、 真田一郎 ( さなだいちろう )という少年がおりました。 おとうさんは、発動機のついた漁船をもっていて、村いちばんの漁の名人でした。 一郎君は近くの町の中学校の一年生で、ゆくすえは、おとうさんよりも、りっぱな漁師になって、遠洋漁業をやりたい希望でした。 そのために、専門の学校へ入れてもらうやくそくが、ちゃんとできているのです。 そういう少年ですから、海が、なによりもすきでした。 泳ぎもじょうずで、四キロぐらいは、へいきで泳げましたし、やすみには、おとうさんの船にのって、漁のおてつだいに出るのが、いちばんのたのしみでした。 船にものれないし、泳ぎもできないときには、学校から帰ると、村はずれの高い岩山の上から、太平洋をながめるのが、日課のようになっていました。 たったひとりで、岩山のてっぺんに腰をおろして、ひざの上にほおづえをついて、じっと、いつまでも、海をながめているのです。 はるかむこうのアメリカ大陸まで、無限にひろがっている広大な海、なんとのびのびとした、美しいけしきでしょう。 同じ海でも、その美しさは、時によって、びっくりするほど、ちがって見えるのです。 まるでかがみのような静かななぎのとき、海一面があわだち、にえたぎるような、あらしのとき、朝日、夕日にまっかにいろどられた海、満月の光で銀色にかがやく海、そのひとつひとつが、みんな、たましいもとろけるように、美しいのです。 その夕方も、一郎君は、学校から帰ると、いそぎの宿題をすませてから、うちをかけだして、岩山の上にのぼり、そのてっぺんに腰をおろして、なつかしい巨大なおかあさんのような海に、じっと見いっていました。 しばらくすると、大空にたなびいている長い雲が、黄色くなり、やがて、だんだん赤くなって、まるで色ガラスのようなまっかな色になり、それがひろい海にまでそまって、見わたすかぎりの水が、えのぐをとかしたように、美しくかがやくのでした。 ふりむくとたらいのように大きなまっかな太陽が、いま、うしろの山にかくれようとしているのです。 そのときでした。 一郎君はふと岩山の下の波うちぎわを、見おろしましたが、そこの岩の上に、なんだか黒いみょうなものが、うごめいているのを発見し、はっとして、目をこらしました。 二十メートルも下の海岸ですから、こまかいことはわかりませんが、いままで、一度も見たことのない、ふしぎなものが、そこの岩の上にうずくまっているのです。 「あっ、黒い人魚だ!」 一郎君は、おもわず声をたてました。 そのものは、さかなのしっぽの上に人間のからだがついているような形をしていました。 からだはまっ黒で、ゴツゴツしていますけれど、その形は、なにかの絵で見た人魚とよくにていました。 絵の人魚はウロコのあるさかなのしっぽの上に、美しいはだかの女の人が、長い黒髪を、うしろにたらしているのですが、いま目の下にいる人魚は、まっ黒で、なんだか鉄ででもできているように、四角ばって、がんじょうに見えるのです。 また、さかなのようなしっぽも、ウロコが銀色にひかっているのではなくて、ワニのように、かたいいかめしいしっぽのようです。 一郎君は、人魚なんて、じっさいにあるものではないと信じていました。 その、この世にいないはずの人魚が、しかも鉄のようにいかめしい人魚が、いま、目の下の岩の上に動いているのを見たのですから、じぶんの目を、うたがわないでいられません。 頭がどうかしたのではないかと、おそろしくなってきました。 しかし、一郎君は勇気のある少年でした。 おそろしいものを見たからといって、びっくりして、にげかえるような弱虫ではありません。 にげるどころか、はんたいに、もっと近くから、あの怪物の姿をはっきり見きわめてやろうと決心したのです。 うらみちづたいに、岩山をかけおりて、海岸にあるトンネルのような岩のかげから、そっと怪物をのぞきました。 怪物のこしかけている岩は、つい目のさき十メートルほどのところにあるのです。 もう太陽がすっかりしずんで、空はネズミ色に、海はどす黒くなっていました。 岩のならんだ波うちぎわに、白い波がはげしくうちよせています。 そこのひとつの岩の上に、黒い鉄のような生きものが、むこうをむいて、じっとしていました。 十メートルのちかさで見る怪物は、ぞっとするほど、おそろしい姿でした。 背中のトサカみたいなものは、まるで 剣 ( つるぎ )をならべたように、するどくとがっています。 大きなしっぽは鉄のワニのようで、動くとガチャガチャと音がしそうです。 一郎君のいきづかいが、はげしくなってきました。 いったい、こんなおそろしい怪物が、太平洋にすんでいたのでしょうか。 ふかいふかい海の中の谷ぞこには、動物学者も知らないような怪物がいると、きいていましたが、それがひょっこり、この日本の海岸へ、姿をあらわしたのでしょうか。 ドキドキする胸をおさえて、そんなことをかんがえていたとき、怪物が身動きをしました。 そして、とつぜんぐるっとこちらをふりむいたのです。 一郎君は、心臓がのどまでとびあがるような気がしました。 ああ、その怪物の顔! 一郎君は一生がい、わすれることはできないでしょう。 背中の、するどいトサカが、頭の上までつづいていました。 ほら穴みたいに、くぼんだ、大きなふたつの目が、リンのように青く光っていました。 口は耳までさけてそのくちびるのあいだから、ニューッと牙がつきだしていました。 一郎君は、それを見たしゅんかんに、岩かげに身をかくしましたが、怪物の方ではもうちゃんと気づいていました。 「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。 」という、鉄と鉄がすれあうような、気味のわるい大きな音がひびいてきました。 あとでわかったのですが、それは怪物の笑い声だったのです。 「カクレテモ、ダメダ。 オレハ、シッテイルゾ。 デテコイ、ソシテ、オレノイウコトヲキケ。 」 怪物の声でした。 この海底のばけものは、日本語をしゃべるのです。 しかし、発音はひどくあいまいで、やっぱり鉄のすれあうような音で、よほど注意しないとききとれないのです。 一郎君はもうだめだとおもいました。 この怪物につかまえられて海の底につれていかれるのだと、決死のかくごをきめました。 そして、勇敢にも岩かげから顔を出して、怪物とにらみあったのです。 「キミハ、ツヨイネ、エライコドモダ。 キミナラ、オレノイウコトヲ、ミンナニ、ツタエテクレルダロ。 イイカ、ヨクキケ。 オレハ、ウミノソコノ、マモノダ。 コノムラニハ、モウコナイ。 シカシ、マモナク、ニッポンジュウガ、オオサワギニナルダロ、オレガ、シゴトヲ、ハジメルカラダ。 ミンナニ、ソウイッテオケ、ウミノソコノ、マモノガ、イヨイヨ、ニッポンニ、ジョウリクシタト、ソウイッテオケ。 ワカッタカ。 」 そして、また、「ジャ、ジャ、ジャ、……。 」と鉄のすれあう笑い声をたてたかとおもうと、ドブンという音がして、たちまち、怪物の姿は見えなくなってしまいました。 白波 ( しらなみ )さかまく海の中へ、とびこんだのです。 お話かわって、こちらは東京のできごとです。 大戸村に鉄の人魚があらわれてから十日ほどのちのことでした。 世田谷 ( せたがや )区に住んでいる、中学二年生の 宮田賢吉 ( みやたけんきち )という少年が、ある夜、友だちのところからおうちへ帰るのに、近みちをして、神社の森の中を歩いていました。 外は、夜になるとだれも通らないさびしい道で、ふつうの子どもでしたら、こわくて、とても近みちなどできないのですが、宮田賢吉君は、少年探偵団の団員でしたから、暗い森の中をひとりで歩くのが、かえっておもしろいくらいでした。 神社の森は、たいへん広くて、大きな木が立ちならび、その枝が空をおおって、ひるまでもうす暗いほどですから、夜は星も見えない、まっ暗やみです。 ところどころに街灯が立っているのですが、その光は木の葉にさえぎられて、遠くまではとどきません。 道ばたにならんでいる石どうろうが、大入道のおばけのように見えて、じつに、うすきみがわるいのです。 賢吉君は、口笛をふきながら足ばやに歩いていましたが、森のまんなかほどまでくると、じぶんの足音のほかに、もうひとつべつの足音が聞こえるような気がしました。 おやっとおもって、口笛をやめて、耳をすましながら歩いていますと、たしかに、べつの足音がしています。 じぶんの足音が、森にこだまして、二じゅうに聞こえるのではありません。 もうひとつの足音はパタパタと、ひじょうにはやく、走っているように聞こえるのです。 賢吉君は、ためしに立ちどまってみましたが、それでもパタパタという足音はつづいています。 やっぱり、だれかが、うしろから走ってくるのです。 ふりむくと、たちならぶ石どうろうのあいだから、黒いものがパッとこちらへとびだしてくるのが見えました。 おとなの人です。 悪ものかもしれません。 賢吉君をおっかけてきたのかもしれません。 そして、お金をとろうとするのではないでしょうか。 しかし、賢吉君はにげだしもしないで、じっと、もとのところに立っていました。 男は、たちまちそのそばに近づいて、 「おい、きみ、たのみがある。 だいじなたのみがある。 きいてくれ。 」 と、息せききって、いうのでした。 「ぼくにですか。 」 「うん、そうだ。 おれは、いま、悪ものにおっかけられているんだ。 これをあずかってくれ。 おれの命よりもだいじなものだ。 きみのうちはこの近くか?」 「ええ、すぐ近くです。 」 「それじゃ、これをきみのうちに持って帰って、うちの中のだれにもわからぬ場所へ、かくしておくのだ。 この箱の中には、おそろしい秘密がふうじこんである。 悪ものどもが、その秘密をぬすみだそうとして、おれを殺すかもしれない。 もし、おれが死んだら、この箱は川の中へでもすててくれ。 だが、おれが生きているあいだは、けっしてすてるんじゃない。 きっとかえしてもらいにいくから、それまで、だれにも気づかれない場所へ、かくしておいてくれ。 わかったな。 おれにとっちゃ、命よりもだいじな品物だからね。 いいか。 」 暗やみながら、そうして話しているうちに、男の顔かたちが、おぼろげに見わけられました。 黒い背広をきています。 しわになった、きたない背広です。 としは五十以上でしょう。 しわの多い、ヒゲむじゃの顔です。 ヒゲをのばしているわけではなく、いく日も、かみそりをあてないので、ぶしょうヒゲでほおがまっ黒になっているのです。 そのうすきみのわるい男が、小さな黒い箱をだいじそうに両手でさしだしているのです。 賢吉君は、小箱をうけとっていいのかどうか、決心がつきかねて返事もしないでいますと、男はしきりにうしろをふりかえって見ながら、 「はやく。 はやく、これをうけとってくれ。 おれは、悪ものにおっかけられているんだ。 いまにも、ここへやってくるかもしれない。 そうすれば、もうおしまいだ。 悪ものは、この小箱をねらっているんだ。 さ、はやく。 」 男はそういって、またうしろをふりむいていましたが、なにか遠くの音を聞きつけたらしく、ハッとなって、 「来た。 やって来た。 もうだめだ。 一生のおねがいだ。 これを持っていって、かくしてくれ。 けっして悪ものにとられるんじゃないぞ。 さ、うけとってくれ。 そして、そこの大きな木のうしろにかくれているんだ。 にげだしちゃいけない。 あいてはおとなだから、にげたら、すぐつかまってしまう。 いいか、わかったね。 」 小箱はいつのまにか、賢吉君の手にわたっていました。 鉄でできているらしく、小さいわりにはひどく重い箱でした。 男が賢吉君の背中をつきとばすようにしましたので、賢吉君は、おもわずよろよろとして、一本の大きな木のみきのうしろにかくれました。 そこは、街灯の光が、まったくとどかない、まっ暗やみですから、けっして、悪ものに見つかる心配はないのです。 賢吉君がかくれたのを見さだめると、男はやにわに走りだしましたが、よほどつかれているらしく、あまりはやくは走れません。 うしろの方からは、いきおいのよい足音がせまってきました。 パッパッパッパッと、おそろしく早いくつ音です。 そっと木のみきからのぞいている賢吉君の目の前に、風をきってひとりの若ものの姿があらわれました。 なんだか、はでなしまの背広をきた、ヨタモノみたいなやつです。 たちまち、にげる男に追いつきました。 「まてっ、さあ、もうにがさんぞ。 きさまが鉄の箱を持ってにげたことは、ちゃんとしっているんだ。 あれをこっちへよこせ。 」 若もののふてぶてしいどなり声に、五十男は、よわよわしく答えています。 「鉄の箱なんておれはしらない。 さあ、見るがいい。 おれはどこにも、そんなもの持ってやしない。 」 若ものは、五十男のからだじゅうをさがしているようすでした。 しかし、鉄の箱は、とっくに賢吉君の手にわたっているのですから、どこからも出てくるはずはありません。 「ちくしょう。 どこかへかくしたな。 さあ、はくじょうしろ。 どこへかくした。 いわないと、いたいめをさせるぞ。 」 若ものは、五十男の手をにぎって、背中の方へねじあげています。 しかし、男は 一言 ( いちごん )も答えません。 そればかりか、いまは死にものぐるいになって、パッとその手をふりきると、いきなり、若ものにつかみかかっていきました。 おそろしい格闘がはじまったのです。 ふたりは、暗やみの中で、くんずほぐれつとっくみあい、そのままたおれて、上になり下になり、地面をゴロゴロころがりまわっていましたが、五十男が若いヨタモノにかなうはずはありません。 いつのまにか、若ものにくみしかれて、気味のわるいうなり声を出していました。 若ものは、五十男の上に馬のりになって、両手でその首をしめつけているのです。 下の男は死んでしまうかもしれません。 もうぐったりとなって、声をたてることもできないようすです。 賢吉君は、木のかげから飛びだしていって、助けてやろうかと思いましたが、そんなことをしても、ヨタモノにかてるはずはないのですから、鉄の小箱をとられてしまうかもしれません。 とられては男にすまないのです。 命をすてても、かくしたいと思っている小箱ですから、どんなことがあっても、ヨタモノにわたすことはできません。 そんなことをいそがしく考えて、ためらっているうちに、若ものが手をはなして立ちあがったようすです。 「命はたすけてやる。 鉄の箱を手にいれるまでは、きさまを生かしておかなくちゃ親分にしかられるからな。 これから帰って、親分とそうだんして、また出なおしてくる。 鉄の箱はどうしたって手にいれるつもりだから、そのつもりでいろ。 」 若ものは、そんなことをいって、どこかへさってしまいました。 たちさったと見せかけて、どこかにかくれているのではないかと、賢吉君はしばらく、ようすを見ていましたが、いつまでたってもなにごともおこらず、ほんとうに帰ってしまったらしいので、おずおずと木のかげから出て、たおれている男に近づきました。 男はまるで死んだようになっていましたが、賢吉君が顔をのぞいて、だきおこそうとすると、やっと目をひらいて、くるしそうな声を出しました。 「あ、きみか。 おれはやられた。 もうだめだ。 箱をたのんだよ。 おれが死んだら、川へすててくれ。 それから、どうせ警察ざたになるだろうが、箱のことだけは、だまっててくれ。 警察にも知られたくないんだ。 きみのうちの人にもいっちゃいけないよ。 おれはなにも悪いことはしていない。 きみにめいわくがかかるようなことは、けっしてないのだから。 いいか、たのんだよ。 」 それだけいうのが、せいいっぱいでした。 男は、そのまま、また目をふさいで、ぐったりとなってしまいました。 賢吉君は、じぶんひとりではどうにもならないと思ったので、いきなりかけだして、神社の森をぬけ、近くのおうちへ帰って、おとうさんに、いままでのできごとをつたえました。 鉄の箱はじぶんの勉強部屋の本箱のひきだしの中へかくし、おとうさんにも、そのことはいわなかったのです。 おとうさんは、警察へ電話をかけておいて、じぶんも、賢吉君のあんないで森の中へ行ってみることにしました。 しらべてみると、この男は、船員あがりの宿なしで、家族もしんせきもない、ひとりぼっちの男とわかりましたので、警察の手で病院に入れて手あてをしたのですが、もともとからだが弱かったので、とうとう死んでしまったのでした。 さて、その男が死んだとなると、賢吉君は約束にしたがって、鉄の小箱を川へすてなければならないのですが、なにか大きな秘密がかくされているというその箱を、すててしまう気には、どうしてもなれません。 そっとかくしておいて、じぶんでその秘密をさぐってみたいのです。 それで、約束にはそむくけれども、しばらくすてないで、かくしておくことにしました。 その箱は長さ十五センチ、はば九センチ、厚さ六センチほどの、から草もようの彫刻のある黒い鉄の箱で、どこにもわれめがなく、どうしてひらくのか、すこしもわかりません。 中にはなにがはいっているのか、ふってみてもなんの音もしないのです。 賢吉君は、その中にとほうもない宝ものでもはいっているようで、いそいで箱をこわすのが、おしいような気がしました。 あとでゆっくりしらべることにして、どこかだれにも知られないような場所へ、かくさなければなりません。 そこでいろいろ考えたすえ、庭のつき山の、てごろな石の下へかくすことにきめ、森の中の格闘のあった夜、みんなが寝しずまったころ、そっと部屋の窓からぬけだして、おもちゃのシャベルで石の下をほって、そこへ鉄の箱をうずめておいたのです。 男が病院で死んだという知らせをうけた晩にも、その石をあげてのぞいてみましたが、鉄の箱はちゃんとそこにありました。 しかし、賢吉君には、ひとつ心配なことがあったのです。 森の中の格闘のあとで、うちに帰ったときうわぎのポケットに入れておいたナイフが、なくなっていたのです。 えんぴつをけずる小さなナイフですが、あのとき木のかげにかくれていて、格闘を見ているあいだにおもわずそのナイフを手に握っていたのです。 べつにそれで、ヨタモノをきずつけようというわけではなく、ただ、ひとりでに手がそこへいってナイフを握りしめていたのです。 そのときは、もとのポケットに入れておいたつもりでしたが、あわてていたので、うっかりおとしてしまったのかもしれません。 そのナイフは、外がわにシカの 角 ( つの )がはりつけてあるのですが、わるいことには、そのシカの角の表面に、じぶんの名がローマ字でK・MIYATAと、ほりつけてありました。 もし、あのナイフを悪ものにひろわれたら、賢吉君が鉄の箱をかくしていることを、さとられるかもしれません。 それで、あくる日、昼の間に森の中へいって、そのへんをくまなくさがしたのですが、ナイフは、どこにもおちていませんでした。 あのヨタモノが、あとからやって来て、ひろっていったのではないでしょうか。 賢吉君には、それがただひとつの心配でした。 さて、男が病院で死んでから十五日ほどたった、ある晩のことです。 賢吉君は勉強部屋の机にむかって、学校の宿題をやっていました。 もう夜の九時ごろでした。 その日も、夕方だれも見ていないのをたしかめて、つき山の石の下をのぞき、鉄の箱がちゃんともとの場所にあることをたしかめておきました。 そして、安心して、勉強していたのです。 このぶんでは、ナイフをひろったのは悪ものではなさそうです。 あれから半月もたつのに、賢吉君の身辺に、なにごともおこらないのですから、もうだいじょうぶという気がしていました。 ところが、そうではなかったのです。 宿題のむずかしいところにさしかかったので、賢吉君はそれを考えるために、えんぴつをおいて目の前の空間を見つめていました。 すると、目の前になんだか、もやもやと動いているものがあるのです。 おやっとおもって、目をさだめてそこを見ました。 机のむこうに、ガラス窓があります。 カーテンがひいてないので、そこからまっ暗な庭が見えています。 そのまっ暗な中に、なにか黒いものがもやもやと、動いているのです。 やみの中に黒いものですから、よく見わけられませんが、なにかいることはたしかでした。 人間かと思いましたが、人間ならば顔は白く見えるはずです。 どうも人間ではなさそうです。 人間ではなくて人間ほどの大きさのものです。 ゾーッと、背中がさむくなりました。 その黒いものは、だんだんこちらへ近づいて来ます。 もう窓ガラスのすぐそばまで来ました。 ぼんやりとかたちが見えます。 それはいままで一度も見たことのないような、うすきみのわるい、へんてこなものでした。 ギョッとして、心臓がのどのところまで、とびあがるような気がしました。 そのものが窓ガラスにぴったり顔をくっつけて、賢吉君をにらみつけたからです。 ひたいの下がゴリラのようにくぼんでいて、そのおくから、リンのように青白く光る、ふたつの目がのぞいていました。 口は耳までさけて、そのくちびるのあいだから、二本の牙が、ニューッと、のびていました。 それは人間の顔ではありません。 動物の顔でもありません。 なんだかえたいのしれないものです。 顔ぜんたいが、まるで鉄のように黒びかりに光っているのです。 賢吉君はにげだそうとしました。 しかし、リンのように光る目でにらみつけられると、ちょうど、ヘビににらまれたカエルのように、もう身動きができなくなって、いすにかけたまま、じっとしているほかはないのでした。 それから、もっとおそろしいことがおこりました。 ガラス窓が、ジリジリと、下から上へひらきはじめたのです。 怪物が外から、おしあげ窓をひらいているのです。 それでも、賢吉君は、まだにげる力がありません。 まるで、いすにしばりつけられたように、まったくからだが動かないのです。 そして、目は怪物の方にひきつけられ、見まいとしても、その方からそらすことができないのです。 窓はすこしずつ、すこしずつ、上の方へひらいていきました。 そして四十センチほどひらいたとき、怪物の顔がニューッと窓の中へはいって来ました。 ふたつの目は青いほのおのようにもえています。 頭の上には、気味のわるいトサカのようなものが、するどくつっ立っています。 それから口が……。 その耳までさけた口が、キューッと三日月形にひらいて、 「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。 」 と笑ったのです。 鉄と鉄がすれるような、おそろしい音をたてて、笑ったのです。 賢吉君は、おもわず「ワーッ。 」とさけんで、いすから立ちあがり、ドアの方へにげようとしましたがそのとき、頭がフラフラして、目の前がスーッと暗くなり、そのまま気をうしなって、たおれてしまいました。 「なんだか、いまへんな声がしたようだね。 」 賢吉君のおとうさんが、おくの部屋から茶の間に出てきました。 「賢吉の部屋のようですわ。 どうしたんでしょう。 あなた、行って見てくださいませんか。 」 おかあさんも心配そうな顔で立ちあがっていました。 「行ってみよう。 戸田 ( とだ )君も、いっしょにきたまえ。 」 おとうさんは、廊下にいた書生の戸田君をつれて、賢吉少年の勉強部屋にいそぎました。 「賢ちゃん、今、なにかいったかい。 」 ドアの外から声をかけてもなんの返事もありません。 そして、部屋の中では、なにかゴトゴトと、みょうな音がしています。 「だれだっ、そこにいるのは?」 書生の戸田君が、どなって、ドアをひらこうとしましたが、中からかぎがかけてあることがわかりました。 「へんですね。 賢ちゃんは、めったにかぎなんかかけたことがないのに。 ……おなじかぎが、もうひとつ茶の間にありましたね。 ぼく取ってきます。 」 戸田君は、そういってかけだしていきましたが、すぐにひきかえしてきて、そのかぎでドアをひらきました。 そして、ひと目部屋の中を見ると、ふたりは、おもわず「あっ。 」と、声をたてないではいられませんでした。 賢吉少年が、たおれているばかりではありません。 本箱や机のひきだしが、ぜんぶひきぬかれて、その中のものが、部屋いっぱいにちらかっていたからです。 おとうさんは、賢吉君のそばにかけよって抱きおこし、「賢ちゃん、賢ちゃん。 」とよんで、そのからだをゆり動かしました。 すると、賢吉君は、やっと気がついて、目をひらき、いきなりおとうさんのからだにしがみつきました。 「どうしたんだ。 いったい、どうしたというんだ。 」 おとうさんは、ちらばった部屋の中や、ひらいた窓を見て、ふしんらしくたずねました。 賢吉君は、おとうさんにしがみついたまま、そっと部屋の中を見まわしましたが、さっきのおそろしいやつは、もう、どこにもいないことがわかりました。 「窓から、おばけが、はいってきたのです。 からだにウロコのはえた、牙のある、おそろしいやつです。 ぼく、そいつに食われてしまうかと思った。 きっと、窓から出ていったのです。 まだ庭にいるかもしれない。 」 賢吉君は、そういって、ガタガタふるえていました。 おとうさんは、そんな怪物がこの世にいるとは思いませんので、賢吉君がゆめかまぼろしでも見たのではないかと、うたがいましたが、それにしては、部屋の中がひっかきまわしたように、ちらかっているのがへんです。 おとうさんは、ひらいたガラス窓にかけよって、まっ暗な庭を見まわしました。 しかし、庭にはなにもいるようすがありません。 「おやっ。 」 おとうさんは、そのとき、窓のしきいに、おそろしいかききずが、できているのに気がつきました。 それは大きな、するどい五本のツメで、ぐっとひっかいたような、なまなましいあとでした。 「おい、戸田君、このきずを見たまえ。 なんだか動物のツメのあとのようじゃないか。 」 「そうですね。 けさまで、こんなあとはついていませんでした。 ひょっとしたら、ほんとうに、あやしいやつが、はいってきたのかもしれませんね。 」 書生の戸田君も、顔色をかえていました。 「よし、庭へ出てみよう。 足あとがあるだろう。 きみ、懐中電灯をもってきたまえ。 」 賢吉君は、さっきから、そこへようすを見にきていた、おかあさんにしがみついて、ふるえていました。 おとうさんと戸田君は、部屋を出て、庭のほうへまわっていきました。 ふたりが庭におりて、懐中電灯でしらべてみますと、土のやわらかいところに、じつにぞっとするような怪物の足あとが、のこっていることがわかりました。 それは、するどいツメのある巨大な動物の足あととしか、かんがえられないようなものでした。 こういう証拠を見ては、もう、ほうっておくわけにはいきません。 おとうさんは、すぐに警察へ電話をかけて、ことのしだいを知らせました。 その電話をきいて、警察でもへんだと思いましたが、賢吉君のおとうさんは、大きな会社の重役をつとめている、町でも有名な実業家でしたから、まさかでたらめではあるまいと、とりあえず三人の警官が自動車をとばして賢吉君のうちへやってきました。 そして、うちの中と庭とを、くまなくしらべましたが、窓のツメのあとと、庭の足あとのほかには、なにも発見できませんでした。 それでは、うちの外まわりを、しらべてみようというので、三人の警官がへいの外の、暗い町を歩いていますと、むこうのほうから、おそろしいいきおいで、かけて来る男の姿が見えました。 なにものかに追いかけられているように、いちもくさんに走ってくるのです。 「きみ、どうしたんだ。 」 ふしんに思って声をかけると、その男は三人の前で立ちどまりました。 「あ、おまわりさんですね。 たいへんです。 おそろしいやつが、マンホールの中から、出てきたのです。 」 息をきって、またにげだしそうにしています。 どこか近くの店の店員らしく、ジャンパーを着た若い男です。 「きみはいったい、なにを見たんだ。 」 「ばけものです。 」 それをきくと警官たちは、この男は、もしや賢吉君をおそった怪物にであったのではないかと思い、あわててたずねました。 「そのマンホールっていうのは、どこだ。 」 「あそこです。 この町のかどをまがったところです。 」 警官たちはそこまできくと、よしっとさけんで、いきなりその町かどへかけだしました。 かどをまがると、すぐにマンホールが見えました。 しかし、べつにあやしいものも見あたりません。 マンホールには、ちゃんと鉄のふたがしまっています。 「おい、このマンホールかい。 なにもいやしないじゃないか。 」 おずおずついてきた若ものに、たずねますと、さもこわそうにゆびさしながら、 「それです。 そのふたがスーッともちあがって、中からおそろしいばけものが出てきたのです。 」 「おそろしいばけものって、どんなやつだった?」 「牙がはえていました。 それからウロコがはえていました。 目がリンのように光っていました。 」 やっぱりそうでした。 賢吉君をおそった怪物です。 「そいつは、マンホールから出たのでなくて、マンホールへにげこんだのかもしれないぞ。 」 警官のひとりが、さすがに気味わるそうに、目の前のマンホールのふたを見ました。 「よし、それじゃ、しらべてみよう。 手をかしたまえ、そして、きみはピストルを出してかまえていてくれ。 危険と見たらぶっぱなすんだ。 」 三人の中でせんぱいらしい警官が、そういって懐中電灯をつけると、マンホールのふたのそばにしゃがみこみました。 もうひとりの警官が、それに手をかします。 のこるひとりは、腰のサックからピストルをぬきだして、いざといえば、発射する身がまえをしました。 「そら、いいか。 」 ふたりの警官が力をあわせて、マンホールの鉄のふたをひらいて、わきにのけました。 穴の中は、まっ暗です。 懐中電灯の光が、さっとそこをてらしました。 その中に、鉄のウロコの怪物が、うずくまっていたのでしょうか。 いや、そうではありません。 中はからっぽだったのです。 警官たちは、ひょうしぬけしてしまいました。 「なあんだ。 なんにもいないじゃないか。 」 それは下水のマンホールでしたが、ほそい下水道ですから、そこから下水をつたってにげることはとてもできません。 怪物は、いちじマンホールの中へかくれて、それからまた、にげだしたのでしょう。 さっき店員の見たのは、やっぱり、出てくるところだったのでしょう。 この店員は賢吉君とおなじ怪物を見たのです。 ふたりも見た人があるからには、もう、ゆめやまぼろしとはいえません。 すててはおけないのです。 そこで、警官は電話でこのことを本署にしらせ、本署から警視庁にれんらくしました。 それからは、たいへんなさわぎです。 パトロールカーが三台もやってきました。 警視庁や警察署から何台も自動車がきました。 それに新聞記者です。 賢吉君のおうちは、りんじの捜査本部になって、門の前には十何台の自動車がならび、近所の人たちが、なにごとかと集まってくるものですから、たちまち黒山の人だかりです。 何十人という警官による大捜索がはじまりました。 その近くの家という家は、かたっぱしからしらべられ、町という町は警察の自動車が巡回し、非常線がはられ、アリのはいだすすきまもない、捜査のあみがはられました。 しかし、あくる朝になっても、どこからも、あやしいものは発見されませんでした。 鉄の人魚は、煙のように消えうせてしまったのです。 そのよく日の新聞は、鉄のウロコの怪人の記事でいっぱいでした。 賢吉君のうちの窓じきいにのこったツメのあとと、庭の大きな動物の足あとが、写真になって新聞にのったのです。 日本全国の人がその新聞をよんで、ふるえあがってしまいました。 そして、人が集まれば、このおそろしい怪物の話でもちきりでした。 賢吉少年は、そのあくる朝、警察の人たちがひきあげていくのをまって、そっと庭へ出ました。 庭の石の下にかくしておいた、あの小さい鉄の箱をしらべてみるためです。 ゆうべの怪物が、鉄の箱を持っていったのではないかと心配でたまらなかったのです。 目じるしの石をもちあげてみますと、ああよかった。 鉄の箱は、そこにありました。 ちゃんと、もとの場所にのこっていたのです。 賢吉君は、もうじぶんひとりで、かくしておいてはいけないと思いました。 それで箱をとりだすと、いそいでうちにかけこみ、それをおとうさんに見せて、このあいだの夜、神社の森の中で格闘があったとき、顔じゅうにヒゲのはえた、きたないおじさんに、この箱をあずけられたこと、そのおじさんは、もしおれが死んだら、鉄の箱を、川の中へすててくれといったけれども、おじさんが警察病院で死んでからも、すてる気になれないので、庭の石の下へうずめておいたことを、くわしく話しました。 おとうさんは、鉄の箱を手にとってひらこうとしましたが、どうしてもあけることができません。 書生の戸田君もやってみましたが、やっぱりだめです。 そのとき、賢吉少年は、ふと思いついたように、声をはずませていいました。 「いいことがあります。 ぼく、その箱を明智探偵事務所へ持っていって、ぼくらの少年探偵団の小林団長に見せましょう。 そして、明智先生の知恵をかりれば、きっとこの箱の秘密がわかりますよ。 」 「うん、それはいい思いつきだ。 戸田君に送ってもらって、いつもよびつけのハイヤーに乗って行ってくるがいい。 運転手と戸田君と、ふたりもごえいがついてれば、だいじょうぶだろう。 それに昼間のことだしね。 」 おとうさんも賛成だったので、まず明智の事務所へ電話をかけますと、明智先生も小林少年も、事務所にいることがわかりましたので、顔見知りの運転手の自動車をよんで、賢吉少年は鉄の箱をだいじにかかえて、書生の戸田君といっしょに、それに乗りこみました。 事務所につくと、小林少年が出てきて、ふたりを応接室にとおしました。 そして、賢吉君から話をきき、鉄の箱を手にとって、いろいろやってみましたが、小林少年にもひらくことができません。 「ちょっと待っていたまえ。 明智先生に、この箱を見せてくるから。 」 小林少年はそういって、箱を持ってドアの外へ出ていきましたが、十分ほどすると、明智先生といっしょに、にこにこしてもどってきました。 「先生は、わけなくおひらきになったよ。 ほら、こうするんだ。 箱根細工 ( はこねざいく )の秘密箱とおなじだよ。 から草もようの、ここのところをおすんだよ。 すると、こちらがわがひらくようになる。 それから、ここをおすと、ね。 そうすると、すっかり、ひらいてしまう。 だが、それよりも、もっとたいへんなことがあるんだ。 この箱の中には、何十億円というすばらしいねうちのものが、はいっていたのだよ。 」 小林少年の説明にびっくりしていると、明智探偵がいすにかけて、にこにこしながら話しはじめました。 「それはこういうわけだよ。 この鉄の箱の中には、三つの書きものがふうじこめてあった。 ひとつは 福永 ( ふくなが )という、もと遠洋航路の大洋丸の船長をしていた人の遺言書。 ひとつは、 紀伊 ( きい )半島の南の海路図。 もうひとつは保険会社の証書なのだよ。 」 明智はそういって、手に持っていた何枚かの書きつけを見せました。 「その、もと船長の遺言書は、むずかしい文章なので、くだいて話すとね、今から二十年ばかりまえに、紀伊半島の 潮 ( しお )ノ 岬 ( みさき )の沖で、大洋丸という汽船が、暴風のために沈没した。 そのときは、何十年に一度というひどいあらしで、大洋丸が無電で助けをもとめても、海岸から助けの船を出すこともできなかったほどで、多くの船客や乗組員が死んでしまった。 流れたボートにすがって、やっと海岸にたどりついたのは、十数人の乗組員だけで、その中に、船長の福永という人もはいっていた。 じぶんだけ助かるというのは、あまりえらい船長じゃないね。 大洋丸が無電で助けをもとめるとき、今どこにいるかという位置を知らせたのはいうまでもないが、福永船長の遺言書には、そのとき、じぶんはあわてていたので、たいへんなまちがいをしたと書いてある。 経度 ( けいど )の数字をまちがえて無電技師につたえたので、あとで大洋丸がまるでけんとうちがいの場所に沈んだようになってしまって、保険会社が、船会社に保険金をはらったあとで、沈んだ場所をしらべると、そこはひじょうに深いところで、船はもちろん、荷物も引きあげられないことがわかって、あきらめてしまった。 福永船長は、それから一年ほどたって、やっと無電で送った沈没の位置がちがっていたことに気づいたというのだが、これはどうもおかしいね。 船長は、わざと気づかないことにしておいたのかもしれない。 そして、それからまた一年ほどたって、船長は、保険会社から沈没した大洋丸の権利を買いとった。 そのころのお金で、二十何万円、今にすれば一億円ぐらいになるがね。 そのお金をこしらえて、沈没船をじぶんのものにしてしまった。 どうせ引きあげられない船だから、保険会社もやすく売ってしまったのだね。 引きあげの見こみもない船に、どうしてそんな大金を出したかというと、その船には、 香港 ( ホンコン )からアメリカに送る金塊がたくさんつんであったのだ。 遺言書には、そのころのねうちで四百万円とあるから、今では二十億円ほどのものだ。 船長は、それを引きあげて、大金持ちになろうとしたのだよ。 保険会社から権利が買ってあるので、だれにもえんりょすることはないのだ。 保険会社は、世界じゅうのどんな潜水技術でも、どうしても引きあげられない深いところにあると思ったので、権利を売ったのだが、船長は大洋丸が、無電で知らせた場所からは五マイルもへだたった、もっとあさいところに沈んでいることを、ちゃんと知っていた。 そこなら潜水作業もできるだろうと考えたのだよ。 そこでいよいよサルベージ会社にたのんで、金塊の引きあげをやろうと、いろいろな準備をしているうちに、この福永船長は 大病 ( たいびょう )にかかって、なにもできないようになり、三ヵ月ほどで死んでしまった。 天罰があたったのだろうね。 それで、まだ字のかけるあいだに、この遺言書をかいて、鉄の秘密箱をつくらせて、保険会社の証書と、ほんとうに大洋丸の沈んでいる場所をしるした海図といっしょにふうじこんで、じぶんのひとりむすこにのこした。 そのむすこが、賢吉君に鉄の箱をあずけたというわけだ。 このむすこは、いくじのない男で、じぶんで引きあげて作業をはじめることもできず、いく人かのお金持ちに、引きあげの権利を売りつけようとしたが、そのころは、もうびんぼうになってしまって、きたないふうをしていたので、そんな男の『海底の大金塊』なんて、ゆめみたいな話は、だれも信用してくれなかったのだね。 そして、いつのまにか二十年がたってしまった。 そのことが、むすこの手で遺言書のはじに書きつけてあるのだよ。 」 明智探偵の長い説明が、やっとおわりました。 賢吉少年には、まだよくわからないところもありましたが、ともかく、二十億円の金塊が、潮ノ岬の沖に沈んだままになっていることは、なんだか、ほんとうらしく思われてくるのでした。 明智探偵は、そういう説明をしたあとで、賢吉少年と書生の戸田に、こんなことをいいました。 「この小箱をねらっているやつは、おそろしい悪ものだ。 賢吉君のおうちへおくのは、心配なくらいだ。 しかし、それは、わたしが、まもってあげる。 だいじょうぶだから、安心してお帰りなさい。 そして、またもとの石の下へかくしておくんだね。 」 そういって、部屋のすみの、事務机の前にいって、小箱の中へ書きつけを入れ、もとのとおりふたをしめて、賢吉君に手わたしました。 賢吉君と書生の戸田は、明智探偵と小林少年に、あつくおれいをいって、いとまをつげ、おもてに待っていた自動車に乗りました。 自動車は世田谷の賢吉君のおうちに向かって走りだし、十五分ほどすると、大きなやしきのならんださびしい道にさしかかりました。 両がわに、高いコンクリートのへいが百メートルもつづいて、そのへいの中には、大きな木がたちならび、ひるまでも、うす暗いようなところです。 そのコンクリートべいの谷間のような場所にきたとき、自動車がキーッというブレーキの音をたててとまりました。 「おや、へんなところで、とめるじゃないか。 どうしたんだ。 故障がおこったのかい。 」 書生の戸田が、運転手に声をかけました。 すると、むこうをむいていた運転手が、ひょいと、こちらをふりむいて、ニヤリと笑ったのです。 「あっ、きみはさっきの運転手とちがうじゃないか。 いつのまに、いれかわったんだ。 そして、きみはいったい、だれだっ!」 「こういうもんさ。 」 運転手はふてぶてしい声で答えて、ニューッと、ピストルをさしつけました。 「あっ、それじゃ、きさまは……。 」 戸田はびっくりして、となりの賢吉少年をだくようにして、まもりました。 あいてがピストルを持っているのでは、どうすることもできません。 「なあに、きみたちの命をもらおうとはいわない。 鉄の小箱さえだせばいいのだ。 さあ、はやくだせ。 」 戸田は、すきがあれば、自動車からとびおりて、にげようと、そっとドアのとってに、ゆびをかけました。 すると、あいては、はやくもそれをさっして、にくにくしく笑うのでした。 「ハハハ……だめだめ、にげようたって、にげられるものじゃない。 ドアの外をよく見るがいい。 」 はっとして、ガラス窓の外を見ますと、いつのまにあらわれたのか、窓のすぐそばに、ものすごい顔の男が立ちはだかっていました。 手には、やっぱりピストルをかまえて、にやにや笑っているのです。 それじゃ、こちらからと、はんたいがわの窓を見れば、これはどうでしょう。 そこにも、おなじようなあらくれ男が、ピストルをかまえて、にらみつけているではありませんか。 三方からピストルを向けられては、もう、どうすることもできません。 戸田は賢吉少年に、鉄の小箱をわたすように手まねであいずをしました。 賢吉君も、しかたがないので、それを、前の運転手にさしだしました。 あいては、ひったくるように、それをうけとると、また、にくにくしく笑うのでした。 「ワハハハ……、かんしん、かんしん、きみたちは、よくいうことをきくねえ。 それじゃ、これでゆるしてやるよ。 きみたちの運転手は、うしろのトランクにおしこめてある。 おれたちの姿が見えなくなったら、トランクをあけて、だしてやるがいい。 そうすれば、また自動車を運転してくれるよ。 」 にせ運転手は、自動車からとびだして、パタンとドアをしめました。 そして、三人の男は、まるで短距離の選手のように、おそろしいいきおいで、むこうへ、かけだしていきました。 「ああ、とりかえしのつかないことをしてしまった。 あのだいじな鉄の小箱をとられてしまった。 賢ちゃん、あいつらは、いつかの悪ものの手下ですよ。 ……それにしても、明智さんは、ぼくがまもってやるから、だいじょうぶだとうけあってくれたのに、どうしたというんでしょう。 こんなに、はやく、とられてしまうようでは、明智さんも、あてになりませんね。 じつに、ざんねんです。 」 戸田は、くやしそうに、ぶつぶついっていましたが、三人の男の姿が、見えなくなって、しばらくすると、自動車をおりて、うしろのトランクのふたをひらきました。 そこには、あの知りあいの運転手が、さるぐつわをはめられて、まるくなって、おしこめられていました。 賢吉君も車をおりて、てつだいました。 そして、トランクからだして、さるぐつわをはずしてやりましたが、運転手は、頭をさすりながら、 「明智さんの事務所の前に、車をとめてうっかりしていると、いきなり、うしろから、ここをガンとやられ、さるぐつわをはめられてしまいました。 おそろしく力のつよいやつで、どうすることもできませんでした。 もうしわけありません。 それじゃ、やつがわたしにばけて、ここまで運転してきたのですね。 」 「そうだよ。 きみとおなじような上着をきていたので、うしろ姿では、見わけがつかなかった。 まさか、ひるまから、こんなだいたんなまねをするとは思いもよらないのでね。 さあ、いそいで運転してくれ。 もううちに近いんだから、帰ってから警察に電話をかけよう。 ぼくらは、だいじなものを、ぬすまれてしまったんだよ。 」 そこで、三人は自動車に乗りこみましたが、車が走りだそうとするとき、賢吉少年が、「あっ。 」と声をたてました。 まっさおな顔になって、目がとびだすほど大きくなっています。 そして、窓の外をじっと見つめているのです。 戸田と運転手は、おどろいて、賢吉君の見つめているところを見ました。 高いコンクリートべいの上から、なにかがのぞいていました。 うしろには、大きな木の枝が青黒くしげっています。 その前のへいの頂上に、なにか黒いものが見えるのです。 それは、えたいのしれぬ、へんてこなものでした。 黒い顔の中に、リンのように青く光るふたつの目がありました。 耳までさけた口がありました。 その口から、ニューッと白い牙がつきだしているのです。 頭には、するどい鉄のトサカがはえています。 鉄の人魚です。 あの怪物が、コンクリートべいの内がわをよじのぼって、首だけだして、こちらをにらみつけているのです。 「はやく、はやく……。 」賢吉君は、一度出あったことがあるので、そのおそろしさを、よく知っていました。 いまにも、怪物がへいをのりこして、追っかけてでもくるように、運転手をせきたてるのでした。 運転手も、このおそろしい怪物には、すっかり、おびえてしまって、やにわに速力をだしました。 車は人通りのない谷間の町を、きちがいのように突進しました。 賢吉少年たちは、うちに帰ると、自動車をとびおりて、おとうさんの部屋へかけこんでいきました。 そして、息をはずませて、いまのできごとを伝えるのでした。 おとうさんは、すぐに警察へ電話をかけて、このことをしらせ、それから明智探偵事務所をよびだしました。 「なに、鉄の小箱をとられた? やっぱりそうでしたか。 」 電話口の明智探偵は、そういって、ちょっと、考えているようでしたが、すぐに、ことばをつづけました。 「それじゃ、これからすぐに、おたくへうかがいます。 電話ではお話しできないことがあるのです。 しかし、ご安心ください。 わたしは賢吉君に、かならず、まもってあげると、約束しました。 その約束はちゃんとまもっているのです。 」 そして、電話がきれたのですが、明智探偵は、いったい、なにをいっているのでしょう。 鉄の小箱をまもるという約束だったではありませんか。 その小箱はとっくに盗まれてしまったのです。 いまごろになって、どうしようというのでしょう。 おとうさんは、ふしぎそうに首をかしげました。 しばらくすると、明智探偵が、自動車でかけつけてきました。 おとうさんと賢吉君は、明智を応接間にとおしてもてなしました。 「さっきの電話は、よくわからなかったのですが、鉄の小箱はあくまでまもってやると、おっしゃったようですね。 」 おとうさんが明智をせめるように、たずねました。 「そうです。 たしかにおまもりしています。 」 名探偵は、にこにこして答えました。 「え、それは、いったい、どういうわけですか。 鉄の小箱は、悪ものにとられてしまったのですよ。 」 「いや、ご心配にはおよびません。 とられたのは、箱だけです。 なかみは、ちゃんとここにありますよ。 」 明智はポケットから、大きな封筒をとりだして、その中から、船長の遺言書と、航海図と、保険会社の証書をだして見せました。 「あっ、それじゃ、先生は……。 」 「そうですよ。 こんなこともあろうかと思って、小箱のなかみを、すりかえておいたのです。 悪ものが盗んでいった鉄の小箱には、白い紙がはいっているばかりですよ。 」 賢吉君もおとうさんも、名探偵のぬけめのないやりくちに、すっかり感心していました。 「ああ、そうとは知らないものですから、しつれいなことを、もうしました。 おゆるしください。 さすがは明智先生です。 これですっかり安心しました。 」 おとうさんは、くりかえし、おれいをいうのでした。 明智は、ことばをあらためて、 「宮田さん、悪ものどもは、このうえ、まだどんなたくらみをするかわかりません。 金塊を、はやくこちらで引きあげることにしてはどうでしょう。 遺言書に書いてあることは、うそではありますまい。 わたしは、さっき賢吉君が帰られてから、しらべてみたのですが、いまから二十年まえに潮ノ岬の沖で、東洋汽船会社の大洋丸が、沈没したことは、たしかです。 また、そのとき、引きあげ作業をやろうとして、できなかったことも、まちがいありません。 やってみるだけのねうちはあります。 東洋汽船会社と保険会社に相談して、費用をだしてもらって、もし金塊が見つかったら、あなたと、汽船会社と、保険会社でわけるということにして、政府にもことわって、海の底を、さぐって見られてはどうでしょう。 」 賢吉君のおとうさんは、しばらく考えていましたが、やがて、決心したようにいうのでした。 「それじゃ、ひとつ海底の冒険をやってみましょうか。 さいわい、この汽船会社と保険会社の重役に友人がおりますし、沈没船ひきあげのサルベージ会社にも、したしい人がありますから、わたしが相談すれば、きっと承知してくれます。 じつは、わたしは、こういう冒険がだいすきなのですよ。 」 それから、いろいろ、金塊ひきあげのことについて話しあっているところへ、電話がかかってきました。 おとうさんが立っていって、受話器を耳にあてますと、なんだか、みょうな音が聞こえてきました。 ジャ、ジャ、ジャ、ジャという鉄をこすりあわせているような、気味のわるい音です。 電話の故障かと思いましたが、そうではありません。 なにかいっているのです。 「ソコニ、アケチガイルダロ。 ハナシタイコトガアル、ヨンデクレ。 」 それは人間の声とは、思えないような、ぶきみな音でした。 「あなたは、だれですか。 」 「アケチノ、トモダチダ、ハヤク、ヨンデクレ。 」 しかたがないので、明智をよんで、受話器をわたしました。 「ぼくは明智だが、きみはどなたです。 」 「シッテルダロ、オマエノテキダ。 ヨクモテツノハコノナカノモノヲ、カクシタナ。 オボエテイロ、キット、トリカエシテヤルゾ。 アケチ、オボエテイロ。 」 そしてガチャンと電話がきれました。 明智は賢吉君のおとうさんと、顔を見あわせました。 「鉄の人魚です。 やっぱり、あいつが、大金塊をねらっているのです。 ゆだんはなりません。 いっこくもはやく引きあげ作業をしなければなりません。 」 それから二週間ほどは、なにごともなくすぎさりました。 そして、ある日のこと、日東サルベージ会社のハヤブサ丸が、大阪港から潮ノ岬にむかって出発したのです。 ハヤブサ丸は、六百トンの引きあげ作業船です。 この船には、サルベージ会社の技師や潜水夫や船員のほかに、賢吉君と、おとうさんの宮田さんと、小林少年が乗りこんでいました。 東京から大阪まで電車できて、この船に乗ったのです。 小林君は明智探偵の代理として同行しました。 そしてもし、むずかしいことがおこったら、無電で明智先生にしらせるという約束でした。 ときは春、空は青々とはれて、 畳 ( たたみ )のように静かな海を、ハヤブサ丸はすべるようにすすんでいます。 たのしい航海でした。 小林少年と賢吉少年は、 上甲板 ( じょうかんぱん )に出て、船尾にあわだつ白い波を見ながら、かたをくんで、たからかに歌をうたいました。 その夜は、美しい月夜でした。 夜がふけるにつれて、ますます月はさえかえり、波にそのかげをうつして、海はいちめんに銀ぱくをまきちらしたようです。 こうたいでもち場についている船員のほかは、みんな船室にはいって、ねむりについていました。 トントントントンという機関のひびき、サーッ、サーッと船が波をきる音、こうこうと照る月の下には、そのほかに、なんのもの音もありませんでした。 ひとりの船員が、甲板をコツコツと、歩いていました。 一時間ごとの見まわりです。 中央船室のよこの、ほそい通路をとおって、船首のほうにでました。 つりあげた救命ボートの下をくぐって、ひょいと、むこうを見ると、船首のとっぱなに、黒いものが、うずくまっていました。 「おやっ、あんなところに、だれかが寝ているのかしら。 」へんだと思って、そのほうへ近づいていきましたが、どうも人間ではなさそうです。 からだじゅうに大きなウロコが、はえています。 それが月の光をうけて、キラキラとひかっているのです。 長いしっぽがあります。 頭から、背中にかけて、ギザギザのトサカのようなものが、つづいています。 なんだか大きなワニのようでした。 しかし、このへんにワニがすんでいるはずはありません。 船員は、背中がゾーッと、さむくなってきました。 どんな動物の本にも書いてないような、へんに気味のわるいものです。 でも、こわいもの見たさで、足音をぬすむようにして、なおも近づいていきますと、その黒いやつが、首をあげて、ぐーっと、こちらをむきました。 それを、一目見ると、船員は、からだがしびれたようになって、にげることも、さけぶことも、できなくなってしまいました。 黒い鉄のような大きな顔に、くぼんだ目が、リンのようにかがやいていました。 耳までさけた三日月がたの口から、白い牙がニューッと、つきだしていました。 「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……。 」 怪物が口を大きくひらいて、笑っているのです。 その笑い声は、まるで鉄をすりあわせるような、気味のわるい音でした。 「ワーッ。 」 とうとう、声がでました。 船員は、死にものぐるいの声をふりしぼって、助けをもとめました。 「だれかきてくれ……。 」 その声に、どこからか、人の走る音がして、ひとり、ふたり、三人と、船員が、かけつけてきました。 船首の怪物は、ひときわ大きな声で笑いながら、さっと、身をひるがえすと、ウロコをキラキラひからせながら、ふなばたの手すりをこして、ドボーンと海の中へ、とびこんでしまいました。 いそいで、ふなばたにかけよって、のぞいて見ると、鉄のワニのようなやつが、船とならんで泳いでいましたが、あっと思うまに水中ふかく沈んで、海面から姿を消していきました。 鉄の人魚です。 鉄の小箱の海図をぬすむことができなかったので、ひそかに賢吉君らのあとを追い、この船まで、つけてきたのでしょう。 海中にとびこんだといっても、あいつは、もともと海の怪物です。 船とおなじはやさで、泳いでいるのかもしれません。 そして、どこまでも、しゅうねんぶかく、賢吉君たちのあとを追ってくるのかもしれません。 小林少年は、このできごとを、無電で東京の警視庁に知らせ、そこから明智探偵事務所へ伝えてもらいました。 それからは、べつだんのできごともなく、ハヤブサ丸は潮ノ岬の沖につきました。 宮田さんの手にいれた海図には、大洋丸の沈んだ位置の緯度と経度が、ちゃんとしるしてありますから、その位置の海底を、水中探測機でさぐればよいのです。 水中探測機というのは、船から超短波を発して、それが海底にぶつかって、もどってくる時間がグラフになって、紙のうえにあらわれるようになっている機械です。 そのグラフの曲線で、海の深さがわかるのですが、もし沈没船があれば、そこだけ、きゅうにふくらんだ線になってあらわれるので、それとさっしがつくわけです。 ハヤブサ丸は、海図にしるしてある海面を、行ったり来たりして、くりかえし水中探測機のグラフをしらべました。 そして、その曲線のふくらみが、海底の岩やなんかでなくて、沈没船にちがいないことをたしかめたのです。 海面から沈没船の上部までは、わずかに三十メートルほどでした。 これなら、金塊だけでなく、大洋丸そのものも、引きあげることができるかもしれません。 大洋丸の船長が、正しい沈没の位置をかくしていたばっかりに、貴重な金塊や鉄材が、二十年も海底にねむっていたのです。 沈没船の位置がわかると、いよいよ、潜水夫をもぐらせてみることになりました。 金塊が、大洋丸のどこにつんであったかは、船長の遺言書にも書いてありませんので、それをさがすだけでも、たいへんです。 ですから、すぐに金塊を引きあげるわけではなく、まずその沈没船が、はたして大洋丸かどうかを、しらべるための潜水です。 その日は、空が青々とはれわたった、よい天気で、風もなく、波もなく、潜水にはもってこいの日よりでした。 サルベージ会社の人たちは、ふたりのくっきょうな潜水夫を、えらび出して、ゴムの潜水服をきせ、 真鍮 ( しんちゅう )の潜水カブトをかぶせてやり、カブトの中へ空気をおくる、送気エンジンのよういをしました。 ふたりの潜水夫は、ハヤブサ丸の外がわにとりつけてある、直立の鉄ばしごをおりて、タコのおばけのような丸い頭をふりながら、いのち綱とゴムホースのような送気管と、それにまきついている電話線を引きずるようにして、つめたい水の中へ、はいっていきました。 船の上では、船長や汽船会社の人たちや、この引きあげ作業の団長である宮田さんなどにまじって、賢吉少年と、小林少年とが、海中に異様な姿を沈めていく潜水夫たちを、じっと、見まもっていました。 ふたりの潜水夫は、右手には、なにかをこじあけるための鉄棒のようなものを持ち、左手には、暗い沈没船の中をてらすための、水中電灯をさげていました。 潜水夫たちは、足のうらにつけた、大きなナマリのおもりや、胸にさげたナマリのおもりの力で、ぐんぐん水の中を沈んでいきます。 沈むにつれて、下の方から巨大な船体が見えてきました。 二十年もたっているので、水の中のゴミがつもり、そこから海草がはえ、また貝がらが、いっぱいついていて、鉄の船というよりは、海の底の大きな岩山のように見えるのでした。 船体は三十度ぐらいによこにかしいで沈んでいました。 甲板がきゅうな坂のように、かたむいているのです。 ふたりの潜水夫がおりたのは、沈没船の船首に近いところでした。 かれらは船首の外がわにたどりついて鉄棒で貝がらなどを、けずりとり、水中電灯をふりてらして、船の名が書いてある場所をさがしました。 そして、なんなく、それが大洋丸にちがいないことを、たしかめたのでした。 それから、ふたりは、かたむいた甲板をよじのぼるようにして、ハッチ(甲板から船の中へおりる出入り口)をさがしました。 それも、じき見つかったので、ふたりはそこから、せまい階段をおりて、下の船室へはいっていきました。 その鉄の階段にも、いちめんに、貝がらがくっついているので、まるで岩のほら穴の中へでも、はいっていくようなかんじです。 階段をおりたところに、広い部屋がありました。 いや、部屋というよりは、大きなほら穴です。 かたむいた床には、二十年のゴミがたまり、そこから人間の胸までもあるような、長いコンブのような海草が、いっぱいはえていて、歩くこともできないほどです。 そこは上甲板の下で、貴重品室などのあるところですから、潜水夫たちは、それをさがすために、おりてきたのですが、壁は、すっかり貝がらにおおわれていて、どこにドアがあるかもわからないほどで、とても、金塊のありかをみつけだす見こみはありません。 船室の床も、三十度かたむいているのですから、ナマリのくつで歩くたびに、ずるずるとすべります。 しかし、陸上とちがって、すべっても、ころぶようなことはありません。 水の中でからだが軽くなっているからです。 足がすべると、海草の根に十センチもたまっているゴミが、むらむらと目の前にわきあがり、むこうが、見えなくなってしまいます。 また、海草のあいだに、かくれていたさかなが、むれをなして逃げだします。 それが水中電灯の光の中をとおると、ウロコが金色、銀色にかがやいて、じつにうつくしいのです。 潜水夫は、手くびまではゴムの潜水服ですが、ゆびには軍手をはめていました。 そのほうが仕事がしやすいからです。 ひとりの潜水夫が、かたむいた床にすべって、どろどろしたゴミのなかに手をつきました。 すると、その手に、なにかみょうな、かたいものがさわりました。 「おい、ほとけさまだぜ。 」 陸上ならば、そういって、なかまにしらせるのですが、潜水服では、おたがいに話もできません。 そして、ゴミの中のかたいものを、ひろいあげ、電灯の前に持ちあげました。 それはがい骨の頭でした。 黒いほら穴のような目、くいしばった長い歯のれつ、潜水夫は、沈没船のがい骨には、なれていたのですが、やっぱり、ぶきみです。 すると、もうひとりの潜水夫が、電灯の光の前に手を出しました。 その手は、がい骨の足の骨を、にぎっていたではありませんか。 それから、水中電灯を、床のゴミのそばに近づけて、さがしてみると、手や足や、あばらの骨が、つぎつぎと、あらわれてきました。 大洋丸の船員が、この部屋で死んでいたのです。 それが、いまではバラバラの骨ばかりになって残っていたのです。 ふたりの潜水夫は、がい骨を見て、気味わるくおもいましたが、こわがるというほどではありませんでした。 かれらは力の強いくっきょうの若もので、ちょっとぐらいのことに、おどろくような弱虫ではなかったのです。 ところが、その勇敢な潜水夫が、あまりのおそろしさに、ガタガタふるえだすようなことが、おこりました。 ふたりが、がい骨をみつけたあとで、なおもおく深く進もうとしていますと、水中電灯の光が、かすかにてらしている、むこうの方の海草が、ゆらゆらと動いているのに気づきました。 さっきからふたりが歩くたびに、そのまわりの海草が、ゆれ動いてはいましたが、そんな遠くの方の海草が、動くのはへんです。 なにか大きなさかなでもかくれているのではないでしょうか。 そのへんの海には、ずいぶん大きなさかながいます。 また、びっくりするような巨大なカニなども、すんでいるのです。 ふたりは、海草のうしろから、なにがとびだしてくるのかと、おもしろはんぶんに、水中電灯をてらしながらその方へ近づいていきました。 見ると、ゆらゆらゆれている、コンブのような海草のあいだから、ニューッと、黒っぽいものが出てきました。 カニの足かもしれません。 それにしても、おそろしく大きなふとい足です。 その黒っぽい足のようなものは、さきがいくつにもわかれて、キューッとまがっていました。 そのひとつひとつに、するどいツメのようなものがついています。 まるで人間のゆびのようです。 しかし、こんな黒い人間のゆびがあるでしょうか。 潜水夫たちは、そこに立ちすくんでしまいました。 なんだか、こわくなってきたからです。 その黒いうでが、ぐーっとのびて、黒い肩があらわれ、それから、顔のようなものが、ひょいとのぞきました。 それを見ると、こちらは、潜水カブトの中で、「あっ。 」と声をたてました。 リンのように、まっさおに光っている、大きな二つの目、耳までさけた、おそろしい口、その口から白い牙が二本、ニューッとつき出しています。 そして、鉄のような黒い頭の上には、するどくとんがった、トサカのようなギザギザがあるのです。 潜水夫たちは、まだ鉄の人魚を見てはいないのです。 しかし、そいつがハヤブサ丸の甲板に寝そべっていたという話はきいていました。 こいつこそ、その鉄の人魚にちがいありません。 やっぱり、怪物はハヤブサ丸のあとをつけて、潮ノ岬までやってきたのです。 そして、はやくも大洋丸の船室の中へはいりこんでいたのです。 潜水夫たちが、ふるえあがって逃げだそうとしていますと、怪物は、もう全身をあらわして、パッとこちらへとびかかってきました。 ああ、そのおそろしさ! それは映画のなかで、機関車がばくしんしてくるのににていました。 青く光る二つの目が、白い牙が、水の中を、とびつくように、ばくしんしてきたのです。 「人魚だあ! 鉄の人魚だあ! 引きあげてくれえ、はやく、引きあげてくれえ!」 潜水夫たちは、カブトの中で、声をかぎりにさけびました。 その声は、むろん、電話線でハヤブサ丸の上につうじるのです。 そして、もがくようにして、船室から逃げだそうとしました。 怪物は、そのうしろから、おそろしい手をのばして、せまってきます。 逃げおくれた、ひとりの潜水夫は、あっというまに足をつかまれました。 するどい五本のツメが、ぐっと潜水服に、くいこんだのです。 もう死にものぐるいでした。 右手の鉄棒をふりあげて、めちゃくちゃに、怪物をたたきつけ、もがきにもがいて、やっと足をはなしました。 そして、ふたりとも、船室からハッチへと浮きあがることが、できたのです。 怪物はなぜか、そこまでは追いかけてきませんでした。 潜水夫たちがハヤブサ丸にかえって、怪物のことを報告しますと、船の中は、大さわぎになりました。 宮田さんをはじめ、おもだった人たちが、いそいで船長室に集まり、相談をはじめました。 「やっぱり、この船についてきたのですね。 むろん金塊をぬすみだすつもりでしょう。 なんとかして、それをふせがなければなりません。 」 宮田さんが、あおざめた顔で心配そうにいいました。 すると、船長もうなずいて、 「こんな怪物は、われわれの手では、どうすることもできません。 場合によっては、海上自衛隊の応援をたのまなければなりますまい。 海の中へ、大砲でもうちこんで、ころしてしまうほかはありません。 いずれにしても、無電で本社へ相談します。 そして大阪から、応援隊を送ってもらいます」 すると、そのせきにいたサルベージ会社の技師が、口をひらきました。 「それにしても、時間がかかりますね。 怪物はもう金塊のありかを、さがしだしたかもしれませんよ。 そして、ぬすみだされてしまったら、もうおしまいです。 ……船長、あれをつかってみたら、どうでしょう。 」 「ダイビング=ベルかね。 」 「そうです。 あれにぼくがはいって、怪物を見まもっているんです。 いくら鉄の人魚でも、あの機械なら、どうすることもできないでしょう。 」 「うん、そうでもするほかはないね、じゃあ、きみがはいってくれるか。 」 ダイビング=ベルというのは、あつい鉄でできた大きな玉のような潜水機です。 その中に人間がはいって、海の底へ沈むのです。 鉄の玉には、あついガラス窓があり、その上にサーチライトのような強い水中電灯がついていて、海の中がよく見えるのです。 また、その鉄の玉には二本の鉄のうでがあって、そのさきは、ものをはさむ大きなツメになっています。 鉄のツメです。 サルベージ会社では、潜水夫がもぐれないような深い海底の仕事をするときに、この潜水機をつかうのですが、船長は、まんいちのことをかんがえて、その機械を船につんできたのです。 ハヤブサ丸には、重い潜水機をあつかうための小型のクレーン( 起重機 ( きじゅうき ))がそなえてありました。 数名の船員が、クレーンを動かして、ワイヤーロープで、船倉から潜水機をつりあげ、その中へ、技師がはいりました。 それから、機械を密閉すると、クレーンのむきをかえて、海面につき出し、そろそろと、潜水機を海の中へおろすのでした。 潜水機の中は、ちょうど飛行機の操縦室のように腰かけたまま、なんでもできるようになっていました。 席の前に、いくつもボタンがついていて、それをおせば、外の鉄のうでや、鉄のツメを自由に動かすことができるのです。 技師は、ガラスののぞき窓から、じっと海の中を見ていました。 機械はぐんぐんさがっていきます。 窓の上の強い電灯の光で、十メートルさきまでも、はっきり見えます。 その光の中を、大小さまざまの魚類が、右に左に泳いでいるさまは、じつに美しいけしきでした。 潜水機は、沈没船のハッチの中へははいりませんから、ハッチの入口のそばまでいって、そこで見はっているつもりなのです。 窓から見ていると、海底の沈没船が、だんだん大きくなってきます。 つまり、こちらがその方へ近づいていくのです。 「おや、おそろしく大きなさかなだぞ。 」 技師はおもわず、ひとりごとをいいました。 電灯の光もとどかない、ずっとむこうの方から、クジラの子どもとでもいうような、でっかいさかなが、こちらへやってくるのが見えたからです。 このへんにもクジラがこないとはいえませんが、どうもクジラともちがっていました。 それに、おかしいのは、目がおそろしく大きくて、自動車のヘッドライトみたいに、ギラギラ光っていることです。 まるでメダカのように目が大きくて、しかもメダカの何万ばいもあるずう体をしているのです。 こんなへんなさかなが、ほんとうにいるのでしょうか。 そんなことを考えているうちに、その巨大なさかなは、だんだんこちらへ近づいてきました。 目が大きいばかりでなく、口が五月のぼりのコイのように、まんまるです。 そして、その口がすこしも動かないのです。 目の光は、ますます強くなってきました。 まるでサーチライトのように、その前の水が、パッと明るくてらされているではありませんか。 巨大なさかなの背中には、すきとおった空気ぶくろのようなものがついています。 ひらべったいふくろです。 「や、や、あれはさかなじゃない。 潜航艇だっ。 魚形潜航艇だっ。 」 技師はおもわず、とんきょうな声で叫びました。 それは鉄でできていたのです。 二つの目と見えたのは、潜航艇のヘッドライトだったのです。 あのまるい口は、ひょっとしたら、大砲のつつ先なのかもしれません。 それにしても、このへんてこな潜航艇は、いったい、どこの国からやってきたのでしょう。 いやいや、どこの国でもない。 これはきっと、悪魔の国からやってきたのにちがいありません。 「おやっ、へんなものがいるぞ、いったい、あれはなんだろう。 」 技師はギョッとして、潜航艇の背中を見つめました。 前についている二つの目だまの光が、あまり強いので、背中の方は、よく見えなかったのですが、そこに、おそろしいものが、うずくまっていたのです。 鉄の人魚です。 鉄の顔、鉄のトサカ、耳までさけた口から、二本の牙がニューッとつき出していて、からだはワニのような怪物です。 そいつが、魚形潜航艇の背中に、ヤモリのようにペッタリくっついて、青く光る目で、じっと、こちらをにらんでいるのです。 技師は、鉄の玉の中にはいっているのですから、どんな怪物がやってきても、へいきなのですが、しかし、かれは、鉄の人魚の姿のおそろしさに、ゾーッとして、からだがすくんでしまいました。 魚形潜航艇は、すぐ目の前にきていました。 むこうは、自由じざいに動けるのに、こちらはハヤブサ丸からロープでつりさげられているのですから、にげることもできません。 技師は潜水機の中にある電話機をとって叫びました。 「はやく引きあげてくれえ……。 おそろしい潜航艇がやってきた。 その背中に、鉄の人魚がのっている……。 」 「なに、潜航艇だって? それはほんとうかっ。 」 ハヤブサ丸の船長の声が、ききかえしてきました。 「そうだ。 さかなのかたちをした、おそろしい潜航艇だ。 もう目の前に近づいてきた。 あぶない。 はやく、はやく、引きあげてくださいっ。 」 すると、ハヤブサ丸では、引きあげ作業をはじめたらしく、潜水機はすこしずつ、上の方へのぼっていきます。 そのとき、ギョッとするようなことが、おこりました。 目の前の、魚形潜航艇の、まるい口のような穴から、ヘビの舌みたいな、長い黒い棒が、パッと、とびだしてきたのです。 その棒のさきは二つにわれていて、ものをはさむようになっていました。 そして、そのハサミが、技師の乗っている潜水機の上の方へ、のびてきたのです。 技師はいそいで、上にひらいている小さなガラス窓からのぞきました。 あっ、怪物の鉄のハサミは、潜水機をつりあげているロープを、はさもうとしているではありませんか。 「たいへんだあ。 敵はロープを、きろうとしている。 はやく、はやく、もっとぐんぐん、引きあげてくれっ。 」 ハヤブサ丸では、ロープまきとりのエンジンを、いっそうはやく回転させました。 その力で、潜水機がグラッとゆれて、真上にいる魚形潜航艇にぶっつかりそうです。 技師は、前にあるハンドルを、めちゃくちゃに、まわしました。 すると、潜水機の外につき出している鉄の腕が、左右にグッグッと動いて、潜航艇のよこはらを、たたきつけました。 艇の背中に、しがみついている鉄の人魚が、ぐっと、こちらに首をのばして、リンのように光る目で、にらみつけました。 技師は、またハンドルを、ガチガチやります。 鉄の腕が怪物の方にのびて、ワニのようなしっぽを、つかみそうになりました。 潜航艇の鉄の舌と、潜水機の鉄の腕の、おそろしいつかみあいです。 機械と機械の、たたかいです。 海の底の水はうずをまいて、あわだち、さかなどもは逃げまわり、まるい鉄の潜水機は、ブランブランとゆれ動き、潜航艇はロープをはなすまいと、右に左にしっぽをふり、鉄の人魚は、その背中の上で、あばれまわり、命がけのたたかいが、つづけられました。 しかし、ついに、鉄のハサミの力よりも、ハヤブサ丸のまきあげ機の力が強かったのです。 ロープはぐんぐんまきあげられ、潜水機は鉄のハサミをふりはなして、海面へと引きあげられてきました。 潜水機から出て、ハヤブサ丸の甲板にあがった技師は、ぜんしんびっしょりのあせで、まっかになった顔から、ボトボトと、あせがしたたっていました。 かれは、ひとやすみすると、船長や賢吉君のおとうさんなどに、海底のたたかいのもようを、くわしく話してきかせました。 「敵が潜航艇をもっていようとは、思いませんでした。 鉄の人魚には、たくさんのなかまがあるのです。 これではとても、かないっこありません。 こちらは、自由のきかない潜水機しかないのに、敵は海の底を走りまわる、潜航艇をもっているのです。 いよいよ 爆雷 ( ばくらい )でもなげこむほかはないですね。 」 もう海上自衛隊のおうえんをたのむしかありません。 船長は大阪の支社へ無電をうって、ことのしだいをしらせました。 するとそれにこたえて、支社から、みんなをびっくりさせるような無電が返ってきたのです。 「アケチタンテイ、ユウリョクナブキヲモチ、ケサ、シュッパツシタ、ゴゴ五ジ、ソチラニツクハズ」 ああ、明智探偵が来るというのです。 しかも、有力な武器をもって、やって来るというのです。 人びとはこおどりして、思わずばんざいをさけびました。 午後五時といえば、もう一時間あまりのちです。 みんなは、そのまま甲板に立ちつくして、明智の乗っている船が来るのを待っていました。 「有力な武器って、いったいなんだろうね。 いくら名探偵でも、敵が魚形潜航艇をもっているとは知らなかっただろうから、あれに勝てるような武器をもってくるかどうか、心配だね。 」 船長は技師にむかって、そんなことを、ささやいていました。 無電で問いあわせても、武器のことはなにもこたえないのです。 こちらでは小林少年と賢吉少年が、明るい顔で話しあっていました。 「小林さん、さすがは明智先生だねえ。 きのう、この船から、きみがうった無電で、鉄の人魚がついてきたことを知って、先生はすぐに大阪へこられたんだね。 きっと飛行機だよ。 そしてけさはやく、大阪港を出発されたんだね。 それにしても、有力な武器って、なんだろう?」 「ぼくもしらないよ。 先生はいつも、ぼくたちよりも、ずっとさきのことを考えていらっしゃる。 だから、この事件をひきうけられたときに、ちゃんと武器の用意ができていたのかもしれないよ。 もうだいじょうぶだ。 先生がきてくだされば、もうしめたもんだよ。 」 小林君は、うれしそうに、にこにこしていうのでした。 やがて、はるか水平線のかなたに、ひとすじの煙が見え、双眼鏡をのぞくと、そこに白い汽船の小さな姿があらわれました。

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きめ つの や い ば うろこ だき

「週刊少年ジャンプ」誌上で連載中の本作は,2016年2月に連載がスタートして以来,着実に人気を伸ばし,2019年4月の時点でシリーズ累計発行部数500万部を突破した注目作だ。 というわけで, 「そうだ アニメ,見よう」第78回のタイトルは,同作をアニメ化した 「鬼滅の刃」。 アニメーション制作は ufotable,キャラクターデザインは 松島 晃氏が担当。 監督は「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」()を手がけた 外崎春雄氏が務めている。 なお,本作の第1〜5話を再構成した特別上映版 「鬼滅の刃 兄妹の絆」が,期間限定で劇場公開されている。 これは,TVアニメ版の内容を先行して視聴できるというもので,今回はその特別上映版の所感を交えつつお届けしようと思う。 「鬼滅の刃」 時は大正。 少年・ 竈門炭治郎(CV:花江夏樹)は,炭を売って生計を立て,亡き父親に代わり母親と幼い兄妹達を支えていた。 貧しいながらも幸せな毎日だったが,炭治郎が家を空けたある日,家族を何者かに皆殺しにされてしまう。 かろうじて妹・ 禰豆子(CV:鬼頭明里)だけが生き残っていたが,彼女は凶悪な鬼と化していた。 正気を失った禰豆子に襲われる炭治郎。 危ないところを冨岡義勇(CV:櫻井孝宏)と名乗る剣士に救われるが,冨岡は禰豆子を退治しようとする。 鬼の血が傷口に入り,彼女自身も鬼になってしまったと言うのだ。 ただ1人助かった禰豆子だったが,鬼に成り果て炭治郎に襲い掛かる 肉親を惨殺され,さらに妹・禰豆子は鬼に変貌し,戻せるかどうかも分からないという,衝撃的なオープニングで始まるのが本作「鬼滅の刃」だ。 当然,憎い仇敵への復讐譚となるわけだが,主人公・炭治郎には復讐モノにありがちなダークな雰囲気は微塵もない。 人を食らう鬼であってもかつては人間であり,家族がいた。 その思いが彼を弱くもし,強くもする。 王道のバトルを描きながら,どこか繊細なタッチで人間の弱さや家族の愛情を語る,本作は不思議な魅力にあふれた作品なのだ。 映像の完成度に脱帽 現時点でアニメでは第1,2話が放送されている。 プロローグとなる第1話は,原作の序盤部分が丁寧に描かれ,非常に余裕を持ったペースで進行していると感じた。 アニメーション部分も,作画や撮影技術,雪のエフェクト,そして背景にいたるまで, どれをとっても一級品のできばえに,さすが「Fate」シリーズや「空の境界」などを手がけたufotableだといわざるを得ない。 「テイルズ」シリーズを担当した名コンビ・外崎氏と松島氏のオープニングも見応え十分だ。 なかでも,少年漫画としては線の細い,吾峠呼世晴氏らしい独特のタッチをアニメで再現しているのには,思わず「すごい」と呟いてしまうほど。 それほどのパワーが絵に込められていた。 まだ,春クールも序盤だが,早くも 今期ナンバーワン作品への期待を十分感じさせてくれるプロローグとなった。 3話以降も目の離せない作品となりそうだ。 TVアニメ「鬼滅の刃」第2弾PV 特別上映版は炭治郎の成長物語 ここからは,特別上映版「鬼滅の刃 兄妹の絆」について,筆者の雑感を語ろうと思う。 もちろん,TVアニメ版の1〜5話を再構成した内容なので多少ストーリーに差異はあるが, 一部ネタバレを含んでいるので注意してほしい。 最終選抜試験は「鬼達が幽閉されている藤襲山で七日間生き残る」という過酷なものだ 特別上映版では,原作第1,2巻の「鬼殺隊」選別試験までの過程が描かれている。 鱗滝,錆兎,真菰との出会いと,炭治郎の修行が話のメインとなり,彼の歩む道が困難なものであり,鬼との戦いがいかに壮絶なものであるかが語られる重要なパートだ。 ここでは,やはり炭治郎の成長が見どころとなる。 特別上映版では,錆兎と真菰との出会いと修行シーンが描かれる 選別試験直前に,身体能力を強化する 「全集中・水の呼吸」を会得する炭治郎。 その発動シーンとエフェクトは一見の価値アリ。 アニメーションとはやはり「動いてこそ」と再確認できるシーンだった。 もちろん,最終試練場での手鬼との戦闘シーンなど,ほかにも見どころは多いが,そこは自分の目で確かめてほしい。 ufotableのクオリティもさることながら,原作の持つパワーが相乗効果となり,今期イチオシの作品となりそうだ。 なお,平野稜二氏によるTVアニメ「鬼滅の刃」のスピンオフ4コマ 「きめつのあいま!」がにて連載されている。 こちら毎週日曜日0時に更新されるので,アニメだけでは物足りないという人はそちらもチェックしておこう。 放映データ 2019年4月〜 キャスト 竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹 竈門禰豆子(かまど・ねずこ):鬼頭明里 我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘 嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞 冨岡義勇(とみおか・ぎゆう):櫻井孝宏 鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ):大塚芳忠 鎹鴉(かすがいからす):山崎たくみ スタッフ 原作:吾峠呼世晴(集英社「週刊少年ジャンプ」連載) 監督:外崎春雄 キャラクターデザイン:松島 晃 サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花 脚本制作:ufotable コンセプトアート:衛藤功二、矢中 勝、竹内香純、樺澤侑里 撮影監督:寺尾優一 3D監督:西脇一樹 色彩設計:大前祐子 編集:神野 学 音楽:梶浦由記、椎名 豪 制作プロデューサー:近藤 光 アニメーション制作:ufotable C 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable.

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吉川英治 剣難女難

きめ つの や い ば うろこ だき

「週刊少年ジャンプ」誌上で連載中の本作は,2016年2月に連載がスタートして以来,着実に人気を伸ばし,2019年4月の時点でシリーズ累計発行部数500万部を突破した注目作だ。 というわけで, 「そうだ アニメ,見よう」第78回のタイトルは,同作をアニメ化した 「鬼滅の刃」。 アニメーション制作は ufotable,キャラクターデザインは 松島 晃氏が担当。 監督は「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」()を手がけた 外崎春雄氏が務めている。 なお,本作の第1〜5話を再構成した特別上映版 「鬼滅の刃 兄妹の絆」が,期間限定で劇場公開されている。 これは,TVアニメ版の内容を先行して視聴できるというもので,今回はその特別上映版の所感を交えつつお届けしようと思う。 「鬼滅の刃」 時は大正。 少年・ 竈門炭治郎(CV:花江夏樹)は,炭を売って生計を立て,亡き父親に代わり母親と幼い兄妹達を支えていた。 貧しいながらも幸せな毎日だったが,炭治郎が家を空けたある日,家族を何者かに皆殺しにされてしまう。 かろうじて妹・ 禰豆子(CV:鬼頭明里)だけが生き残っていたが,彼女は凶悪な鬼と化していた。 正気を失った禰豆子に襲われる炭治郎。 危ないところを冨岡義勇(CV:櫻井孝宏)と名乗る剣士に救われるが,冨岡は禰豆子を退治しようとする。 鬼の血が傷口に入り,彼女自身も鬼になってしまったと言うのだ。 ただ1人助かった禰豆子だったが,鬼に成り果て炭治郎に襲い掛かる 肉親を惨殺され,さらに妹・禰豆子は鬼に変貌し,戻せるかどうかも分からないという,衝撃的なオープニングで始まるのが本作「鬼滅の刃」だ。 当然,憎い仇敵への復讐譚となるわけだが,主人公・炭治郎には復讐モノにありがちなダークな雰囲気は微塵もない。 人を食らう鬼であってもかつては人間であり,家族がいた。 その思いが彼を弱くもし,強くもする。 王道のバトルを描きながら,どこか繊細なタッチで人間の弱さや家族の愛情を語る,本作は不思議な魅力にあふれた作品なのだ。 映像の完成度に脱帽 現時点でアニメでは第1,2話が放送されている。 プロローグとなる第1話は,原作の序盤部分が丁寧に描かれ,非常に余裕を持ったペースで進行していると感じた。 アニメーション部分も,作画や撮影技術,雪のエフェクト,そして背景にいたるまで, どれをとっても一級品のできばえに,さすが「Fate」シリーズや「空の境界」などを手がけたufotableだといわざるを得ない。 「テイルズ」シリーズを担当した名コンビ・外崎氏と松島氏のオープニングも見応え十分だ。 なかでも,少年漫画としては線の細い,吾峠呼世晴氏らしい独特のタッチをアニメで再現しているのには,思わず「すごい」と呟いてしまうほど。 それほどのパワーが絵に込められていた。 まだ,春クールも序盤だが,早くも 今期ナンバーワン作品への期待を十分感じさせてくれるプロローグとなった。 3話以降も目の離せない作品となりそうだ。 TVアニメ「鬼滅の刃」第2弾PV 特別上映版は炭治郎の成長物語 ここからは,特別上映版「鬼滅の刃 兄妹の絆」について,筆者の雑感を語ろうと思う。 もちろん,TVアニメ版の1〜5話を再構成した内容なので多少ストーリーに差異はあるが, 一部ネタバレを含んでいるので注意してほしい。 最終選抜試験は「鬼達が幽閉されている藤襲山で七日間生き残る」という過酷なものだ 特別上映版では,原作第1,2巻の「鬼殺隊」選別試験までの過程が描かれている。 鱗滝,錆兎,真菰との出会いと,炭治郎の修行が話のメインとなり,彼の歩む道が困難なものであり,鬼との戦いがいかに壮絶なものであるかが語られる重要なパートだ。 ここでは,やはり炭治郎の成長が見どころとなる。 特別上映版では,錆兎と真菰との出会いと修行シーンが描かれる 選別試験直前に,身体能力を強化する 「全集中・水の呼吸」を会得する炭治郎。 その発動シーンとエフェクトは一見の価値アリ。 アニメーションとはやはり「動いてこそ」と再確認できるシーンだった。 もちろん,最終試練場での手鬼との戦闘シーンなど,ほかにも見どころは多いが,そこは自分の目で確かめてほしい。 ufotableのクオリティもさることながら,原作の持つパワーが相乗効果となり,今期イチオシの作品となりそうだ。 なお,平野稜二氏によるTVアニメ「鬼滅の刃」のスピンオフ4コマ 「きめつのあいま!」がにて連載されている。 こちら毎週日曜日0時に更新されるので,アニメだけでは物足りないという人はそちらもチェックしておこう。 放映データ 2019年4月〜 キャスト 竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹 竈門禰豆子(かまど・ねずこ):鬼頭明里 我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘 嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞 冨岡義勇(とみおか・ぎゆう):櫻井孝宏 鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ):大塚芳忠 鎹鴉(かすがいからす):山崎たくみ スタッフ 原作:吾峠呼世晴(集英社「週刊少年ジャンプ」連載) 監督:外崎春雄 キャラクターデザイン:松島 晃 サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花 脚本制作:ufotable コンセプトアート:衛藤功二、矢中 勝、竹内香純、樺澤侑里 撮影監督:寺尾優一 3D監督:西脇一樹 色彩設計:大前祐子 編集:神野 学 音楽:梶浦由記、椎名 豪 制作プロデューサー:近藤 光 アニメーション制作:ufotable C 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable.

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