ギルガメッシュ エルキドゥ。 #2 1日め 午後 わくわくざぶーん 序 【Web再録】

エンキドゥ

ギルガメッシュ エルキドゥ

Contents• エルキドゥの生まれについて 若い頃は暴君として民を悩ませていたギルガメッシュ王。 救いを求めて祈る民の声に応え、 神が王を戒めるために遣わせたのがエルキドゥです。 彼もギルガメッシュと同様生まれに神が関わっています。 しかし人の子に神の力を注がれたギルガメッシュと違い、彼は創造の女神アルルが粘土から生み出した、ゼロから神に造られた存在でした。 その名前は知恵の神エンキに由来しています。 しかしあの姿はFateシリーズにおいても後年のこと。 生まれたばかりのエルキドゥは、それ以前の人間らしい感情や知性を持たない「野獣的」な性質でした。 姿かたちも全身に毛の生えた動物のようなものだったそうです。 そのような状態でメソポタミアの地上へと送り込まれたエルキドゥ。 始めのころは荒野や森で動物たちと共に寝起きする、文字通り獣のような生活を送っていました。 動物たちを狩人から守ったりもしていたため、彼の噂はやがてギルガメッシュ王にまで届き、王は彼の存在に興味を持ちます。 そこでまず王がエルキドゥのもとに向かわせたのが「神聖娼婦」のシャムハトという女性でした。 古代においては、人間の理性を妨げる動物的な欲求を解消する娼婦の役割は重要視され、神職としての娼婦という職もありました。 彼女もその一人です。 シャムハトはエルキドゥと共に過ごし、彼を慰めるのと同時に人間として必要な知識や振舞い方を教えました。 そしてふたりが7日7晩を共に過ごした頃には、 エルキドゥは見違えるほどに人間らしさを備えるようになりました。 Fateにおける彼の外見は緑髪で中性的な容姿ですが、これは恩人であるシャムハトの姿。 粘土から生み出されたという性質から持つスキル「変容」の力で、彼女に似せた姿を取っているとされています。 ギルガメシュとの出会いと友情 ギルガメッシュとエンキドゥと思われるレリーフ。 フンババ(中央)と戦っている() シャムハトはエルキドゥと過ごす中でギルガメッシュ王の事を彼に教え、エルキドゥも王に興味を惹かれていきました。 双方、相手を強く勇敢な戦士と聞き及んでいた二人は、出会う前から互いに良き仲間になれるだろうという予感を抱き、出会いを心待ちにします。 そしてエルキドゥの教育が終わるころ、ギルガメッシュは彼を迎える為の宴を開く事にしました。 シャムハトに導かれて彼は初めてギルガメッシュの治める都市国家ウルクの地を踏み、王との出会いを果たします。 しかし実際対面した王の第一印象は最悪のものでした。 その暴君ぶりまでは聞かされていなかったエルキドゥは、自由気ままに権力をふるうギルガメッシュの姿に憤慨するあまり、その場で戦いとなってしまいます。 神の祝福を受けた王ギルガメッシュと、神の力を注がれて造られたエルキドゥ。 人外の力を持つ二人による凄まじい戦いが繰り広げられましたが、両者の力は拮抗しており、結局決着はつきませんでした。 誰も自分にかなうものはいないと思っていたギルガメッシュは、初めて自分と対等にわたりあったエルキドゥを立派な戦士と讃え、エルキドゥもまた王の強さを認めました。 全力をかけた戦いの末、二人の間には互いを認め合う深い友情が生まれたのです。 エルキドゥと親友になって以来、ギルガメッシュ王は普段の生活から魔獣退治などの様々な旅まで、常にエルキドゥと行動を共にし頼りにしていました。 長い時を過ごすうちに彼らは互いに影響を及ぼしあい、変化していきました。 ギルガメッシュが横暴さを改めて英雄的な王になったのと同様、エルキドゥも彼によってより人間らしい感情や、自分らしさに目覚めていきます。 エルキドゥは本来、ギルガメッシュ王の暴虐ぶりを正すために神に造られた存在でした。 少しばかり神々の意図とは違う道程になったものの、彼はギルガメッシュと友情を結び、その目的を果たしました。 しかしギルガメッシュという人物に惹かれすぎてしまった事で、少しずつ神々と道を違えていく事になります。 エルキドゥの死 「ギルガメッシュを正す」という神々の目的は果たしたものの、 次第にエルキドゥは神よりギルガメッシュを優先するようなそぶりを見せはじめます。 大きな節目のひとつは「レバノン杉の森」の神獣「フワワ」退治。 ギルガメッシュが治めるウルク、つまりメソポタミアの地域は河水と粘土には事欠きませんが他の資源は貴重品です。 その重要な資源の一つ、杉の森は何としても手に入れたい場所でしたが、神獣フワワが守る場所でもありました。 二人は杉のためにフワワと戦いました。 言わば神からこの土地を奪おうとしたわけです。 戦いの末二人はフワワに勝利します。 ギルガメッシュはフワワの命乞いを聞き入れて救おうとしましたが、エルキドゥは倒してしまう事を勧めました。 フワワの主人である最高神のエンリルにこの事を伝えられ、 自分が神に背いたと知られるのを恐れた事もあったようです。 もうひとつは女神「イシュタル」の怒りを買った事。 恋多き女神である彼女はギルガメッシュの英雄的な活躍に惚れこみ、彼に結婚を申し込みます。 しかしイシュタル神は身勝手さと移り気さでも知られる女神。 それを聞き知っていたギルガメッシュはばっさりと女神の求婚を断ります。 腹を立てたイシュタルは天空神アヌに頼って「グガランナ」という牛の神獣を授かり、ギルガメッシュの治めるウルクの町中で暴れさせるという暴挙に出ました。 結婚を断った事は正解だった、と王が思ったかはわかりませんが、ともかく市民を守るために二人はグガランナと戦い、何とか倒してウルクの平穏を守りました。 「天の牡牛」グガランナを倒しているギルガメッシュのレリーフ() このように、 神にたてつく事も辞さなくなった二人の行動は、神々から怒りを買うと同時に、神獣も倒してしまうその強さを脅威とみなされるようにもなっていきます。 そんな神々の言葉を、エルキドゥは夢で聞きました。 「このまま二人を一緒にしておいては危険だ」「どちらかを死なせてしまおう」と。 神々が死なせる事を決めたのはエルキドゥの方でした。 先の夢をみてから早晩に、彼は神罰を受けて高熱を出して倒れてしまいます。 いかに魔獣や神獣を倒してきた英雄といっても、神のもたらした病に勝つことはできまん。 苦しむ彼を見てギルガメッシュは神に助けを乞いましたが、神の決定は覆りませんでした。 12日間、高熱に浮かされて苦しんだのち、エルキドゥは親友ギルガメッシュの腕の中で最期に「自分の事を忘れないでほしい」と伝え、命を落としました。 その後、 エルキドゥの死は彼を唯一無二の友と思っていたギルガメッシュの心に大きく影を差し、同時に「死」の恐怖を植え付けてしまった、というお話は、「ギルガメッシュ」の記事でお話した通りです。 余談になりますが、Fate作中におけるエルキドゥとギルガメッシュの宝具(必殺技)名に共通する「エヌマ・エリシュ」という読みは、メソポタミア神話における創世記の題から取られたものであり、世界と神々の始まりを意味します。 演出と合わせて、神の力を与えられて生まれながら、人として国のために生き、自分たちの道を進んだ彼らの物語を端的に表しているとも言えます。 かつてはギルガメシュとは友ではなかった? このように、エルキドゥとギルガメッシュ王は最後に悲しい別れを遂げるものの、深い絆で結ばれ支え合う無二の親友でした。 しかしそのような解釈が定着したのは、現代で叙事詩が発見され、解読され始めていくらか経ってからの事です。 「ギルガメッシュ」の記事でもお話しましたが、彼らの登場する「ギルガメッシュ叙事詩」という作品はその発見と解読に長い時間をかけられています。 始めに物語の一部と思われる粘土板の欠片が解読され、話のピースを探すように粘土板の発掘と解読が順次行われていきました。 そのため、物語の全容や登場人物の印象などは、解読が進むにつれて徐々に変わっていきました。 一部の物語しか見つかっていなかった頃は二人の関係性ははっきりせず、わかっている描写からエルキドゥは単に王の下僕であったり、手助けをする存在だったというような解釈がされていた時期もありました。 その後にふたりが友情を結ぶエピソードが見つかった事で、彼らの関係性が立場を変えた親友という解釈が定着していったようです。 こうしてパズルを埋めるように解読されていった叙事詩の物語ですが、いずれにしてもエルキドゥが多くの場面で王に寄り添うような存在として描かれていた事は早期に解っていました。 現在の解釈が固まる以前にも、エルキドゥが王にとって大切な存在であった事は確かだったようです。 古代の物語が伝える普遍的な友情物語 前回の記事、叙事詩の主人公「ギルガメッシュ」に続け、その親友「エルキドゥ」についてお話してきましたがいかがでしたでしょうか。 ギルガメッシュの記事では叙事詩全体のお話をしたため深くは切り込まなかった、二人の間に結ばれた友情について知って頂けたかと思います。 「ギルガメッシュ叙事詩」の中で、エルキドゥが登場する期間は物語の大部分を占めます。 若きギルガメッシュ王を諫めるために彼は王と出会い、共にすごし、その死後もギルガメッシュに思われ続けました。 ギルガメッシュにとって彼はなくてはならない無二の親友であり、もう一人の主人公ともいえる存在です。 二人の熱い友情譚が、この叙事詩の大きな魅力の一つと言えるでしょう。

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【FGO元ネタ解説】エルキドゥ(エンキドゥ)――生涯をかけてギルガメッシュ王に寄り添った親友

ギルガメッシュ エルキドゥ

【あらすじ】突然、ぐだ男がカルデアから消え失せ、ホロウ時空の冬木に飛ばされてしまったことが判明。 完結していません。 続きます。 反応とても嬉しいです。 とてもとても嬉しいです。 この話の公開を予定より早めました。 娯楽が減らされてしまっているこの日々の中で、少しでも楽しんでいただけたらいいな、なんて。 公約(?)通り数回に分けてpixivにアップしていきます。 第2巻もあります。 2日め、埠頭での話から始まります。 ずっ友。 ・ネタバレにはまったく配慮しておりません。 ・捏造満載です。 捏造しかありません。 原作にない人物や設定が出てきます。 ・公式設定や史実と違っていても「この話ではそういう設定なんだな」と思ってください。 ・口調、呼び方、人称等、いろいろ曖昧ですがご容赦ください。 ・腐向けではありません。 エロもございません。 健全なる全年齢向け。 「すべて問題ないよ気にしない」と言ってくださる心の広い方に。 [chapter:わくわくざぶーん 序] 転がり出た先は、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景な部屋だった。 「ちょっと! なんなんですか! あなたがたは!」 心ならずも自ら不審者を部屋に引き入れてしまった『手』の持ち主は、サーヴァントふたりを呆れたように見据えた。 「あーあ。 大人の僕ですか……。 今のでわかりました。 大人の僕を『ギル』と呼んで、平手でぺちぺち叩く。 そんなことをしてのける人物に、僕はひとりしか心当たりがありません。 はじめまして」 丁寧に一礼する、少年時代のギルガメッシュ。 便宜上、彼のことは『子ギル』と呼び分ける。 「はじめまして、ギルくん。 僕には、はじめましての気がぜんぜんしないけど」 「ええ、あなたにはそうでしょうね。 僕がどこかであなたと知己を得ていることは識っています。 でもこの霊基はあなたに会ってはいませんから。 その感覚の正体を解析したくてさらに話しかけようとしたところを、ギルガメッシュに遮られる。 「はぁ……。 相変わらずですね、あなたは。 知らんが識っておる。 ねえギルくん、『わくわくさぶーん』って何?」 「まさに今をそれを説明しようとしてたんですけどね……」 ちらりとギルガメッシュを見上げると、再びこれ見よがしの溜め息をついた。 「ふぅ。 ……まあいいでしょう。 簡単に言うと建物の中に温水プールを入れた施設です。 といってもかなり大掛かりで、ウォータースライダーから波のプールまであるんですよ。 ちなみにきのこの滑り台はちびっ子に大人気です」 「へえ! すごいね!」 「ありがとうございます」 目を丸くして感嘆の相槌を打つエルキドゥと、それに対し満足そうに頷く子ギル。 微笑ましい光景を、ギルガメッシュが疑わしそうに眺める。 「おまえ。 『ウォータースライダー』やら『波のプール』やらがわかって感心しておるのか?」 「ううん、ぜんぜん」 「もしやとは思うが……『プール』が何かはわかっておるのか?」 「いいや、まったく」 「……ではなぜ、感心してみせた?」 「ギルくんが褒めて欲しそうにしてたから」 エルキドゥをしばし呆然と見ていた子ギルだったが、ややあって、今までで最も深い溜め息を溢した。 「…………まともそうな人に見えたんですけど……。 そうですか……。 「ところでそんな『わくわくさぶーん』に、ギルくんは何をしに来たのかな?」 「いいえ。 『わくわくさぶーん』は僕が経営しているんです。 ここはオーナールームですよ。 まあ、ご覧の通り、事務仕事するだけの何もない部屋ですけどね」 「フン。 殺風景な部屋だ。 「ギルくんは社長なんだ! 小さいのにすごいねえ。 あ、『社長』が何かは知っているよ」 「ありがとうございます。 でも小さいと言ってもそれは姿だけで、中身はかなり長く生きましたから。 たいしたことではありませんよ」 「でも、このギルは社長なんてできないと思うんだよ」 「まあ……それは確かに」 冷ややかな眼差しがちらりと動く。 どうしてああなってしまったのか、自分でもわからない。 どうにも理解しがたいんですよ」 「おい、おまえたち!」 「そうだろうねえ……」 「不敬であるぞ! いいかげんにせんか!」 「ギルはちょっと黙っててくれないかな。 僕はギルくんと話したいんだよ」 「なっ……」 子ギルの目がきらりと光った。 「……へえぇ」 未だかつて、誰であれ自分にこのような物言いをするのを見聞きしたことがない。 俄然、興味が湧いた。 「なんだか僕はエルキドゥさんとは仲良くなれそうな気がしてきました」 にこにこして子ギルが言う。 「明日は或る人の依頼で貸し切り営業なのですが、大人の僕にとってもまんざら縁のないわけでもない人なのです。 エルキドゥさん、よかったら明日また遊びに来ませんか?」 「ありがとう! ぜひ来たいよ!」 「おい、遊びに来たのではないのだぞ」 「もちろん忘れてなんかいないさ。 どう見ても天然ですね) 幼年体である自分の中にも確かに存在する、エルキドゥを愛おしく思う気持ち。 それはギルガメッシュという英霊には不可欠な要素のひとつなのだろう。 しかし子ギルの中のそれは、まったく実感を伴わず、したがって空疎なものでしかなかった。 だからこそ、興味は尽きなかったともいえよう。 「大人の僕も来たかったら来てもいいですよ。 エルキドゥさんと一緒なら、ですけど。 ひとりではダメです」 「明日だね! わかった。 ギルと一緒に来るよ。 サーヴァントですか?」 「ううん、人間だよ。 僕のマスターなんだ。 また明日ね」 [newpage] [chapter:穂群原学園] 『わくわくざぶーん』の施設から街に出ると、そこは近代的なビルが立ち並ぶ街だった。 エルキドゥは、先ほど落ちながらインプットした街の俯瞰図を頭の中に広げる。 なるほど、ここは川の東側か。 それも、何人も」 「わかるか」 「そりゃあ、わかるよ。 みんな知ってるサーヴァントだ。 霊基パターンが微妙に違う。 変な感じだね」 エルキドゥがくんくんと空気の匂いを嗅ぐ。 そんな仕草をしていると、初めて会った頃のことを思い出す。 まだ獣そのものであった姿をふっと思い出し、ギルガメッシュの背筋が微かにざわりとした。 心を波立たせる懐かしいその感触に、知らず、唇が綻んだ。 「ギル。 とりあえずマスターを」 「うむ。 ……と言っても、もはや探すまでもないがな」 その言葉の通り、立香の魔力はこの街に在ることが明らかだった。 これを辿れば、ほどなく立香は見つかるだろうう。 (それにしても……) レイシフト後に降り立ったあの河原から、物理距離は幾らも離れていない。 しかしあの時は確かに、立香の気配など微塵も感じられなかったのだ。 (これが『魔術的に隔絶している状態』か…) 新たな情報として、エルキドゥは自身にインプットする。 ふたりは周囲の気配を探りつつ、余所目にはのんびりと、歩き出した。 立香の魔力を辿って程なく行き着いたのは、広い庭をもつ建物だった。 「ここにマスターがいるね」 「うむ。 間違いなかろう」 長閑に行き交う生徒たちを、エルキドゥが不思議そうに眺める。 「ここは魔術師の養成所か何かなのかな」 「なぜ、そう思った?」 ギルガメッシュには、エルキドゥの反応がいちいち面白くてたまらない。 生まれ持った資質、さらにはその出自ゆえに、物心ついてより世の中を醒めた目で見続けてきた半神の王。 そんな彼にとって、赤児同然の心をもって己の前に現れたエルキドゥは、常に新鮮な驚きをもたらしてくれる存在だった。 輝くような緑色の目は、純粋な好奇心によって透き通り、それを通して見る世界は、いつでも生命への畏敬と喜びに輝いている。 そんな友が、幾星霜の年月を経てなお、まったく変わらずにいてくれた。 それは無上の喜びだった。 「マスターが同じ服を着ていた。 あれは魔術礼装なんだろう?」 「なるほど。 全員が魔術礼装を着ている、ゆえに全員が魔術師だろうと思った、そういうことか。 でもなぜ、ここの皆は同じ服を着ているんだろう。 同じ服を着た人間がこんなにたくさんいると、少し気持ちが悪いね」 「管理がしやすいのであろうよ。 「同じ服を着せているのは、侵入した部外者を発見しやすくするため、って理由もありそうだね」 なるほど、校庭の生徒たちはもとより、校舎にいる生徒たちまで窓に連なって校門前のふたりを見ていた。 しかしその視線は好奇心と賞賛に溢れており、警戒の色は見られない。 それも奇異なことではあった。 「あ、マスターが僕らに気づいたみたいだよ」 エルキドゥが指す先には、満面の笑顔で手を振りつつ駆け寄ってくる立香がいた。 「……マスター……?」 このような再会は予想だにしていなかった。 いかにも呑気そうな立香に当惑するエルキドゥを身振りで黙らせ、まったくいつもの通りの口調でギルガメッシュが応じる。 「今のところ貴様に用はない。 雑種同士で遊戯に興じるのも久方ぶりだろう。 時がくれば呼ぶゆえ、それまで遊んでいるとよい。 許す」 「わあ! ありがとう! 王様!」 そしてギルガメッシュは、ほんのついでのように、ごく普通の声音で訊いた。 「あれ? さっきまでここで見てくれていたんだけど。 どこ行ったのかなあ……。 ディルムッドだよ、ランサーのディルムッド・オディナ」 「うむ。 そうであったな。 もう行ってよいぞ」 片手で追い払うような仕草に、王様はあいかわらずだなあと立香は苦笑する。 しかしやはり、ギルガメッシュとエルキドゥという強力な味方が来てくれたことが心強いのだろう。 足取り軽く、サッカーをする生徒たちのところへと駆け戻って行った。 「ギル、どういうことだい? 同行したサーヴァントって? 何か知ってたの?」 「知らぬわ。 如何に雑種が図太いとはいえ、ひとりきりでこの地に放り出されたとあらば、もう少し心細そうにしているであろうよ」 「そうだね。 応援に来たのか、って言ってた。 誘拐されたようにも見えなかった」 「うむ。 雑種は通常のミッションで特異点に来たとでも思っているのであろう」 歓声をもって生徒たちに再び迎え入れられる立香。 「……ねえ、ギル。 「助けなきゃいけない状況には見えないねえ……」 「……」 「リツカはカルデアにいるときよりむしろ元気そうだな……」 無言のままのギルガメッシュと並んで、しばし立香を見守った。 夕刻まではまだ少し間がある穏やかな午後。 陽光は僅かにあたたかな色を帯び、校門からは少しずつ生徒が退場していく。 あちらこちらから聞こえる生徒たちの声。 楽器の音。 ボールの音。 そこに、悲鳴や破壊音が混ざることはない。 歪んでいるがゆえに平和な箱庭。 ここにいる限り、立香には、誰かを犠牲にしてでも生き延びねばならない責任がない。 何度か話したことがあるよ」 「では奴の気配はわかるな」 「ここは魔力がぐちゃぐちゃでとってもわかりづらいんだけど……」 風に逆らってエルキドゥの髪が揺れる。 「この建物にいるサーヴァントはふたり。 攻撃してくる気配はない。 ふたりともよく知ってる霊基だけど、ひとりはカルデアのサーヴァントじゃない。 もうひとりはカルデアのサーヴァントだけど、ここにいる影響なのかな、だいぶパターンが変わってしまってる。 ケルト神話においてフィオナ騎士団最強とも謳われた騎士、ディルムッド・オディナだ。 「説明せよ。 ……いや、この場合、釈明があるならば聞いてやろう、と言うべきか」 ふわり。 「ねえ、ディルムッドはここにどうやって来たの? 僕たちはレイシフトして来たんだけど」 威圧するギルガメッシュと対照的に、微塵の緊張感もないエルキドゥ。 どちらのテンションに合わせるべきか、ディルムッドが戸惑う。 「ああ、ギルのことは気にしなくていいよ。 怒ってるわけじゃないから。 でもあれで自覚はないんだ、困ったことに」 まるで、うちの子ったら噛み癖が治らなくてと嘆いているような口調に、さらに困惑するディルムッド。 救いを求めギルガメッシュを見上げるが、フンと鼻を鳴らすと横を向かれてしまった。 「それが……。 たいへん情けないことに、よく覚えていないのだ……」 「自分とマスターがどうしてここに来ちゃったか、よくわからないってこと?」 きょとん、と首を傾げるエルキドゥ。 「……言い訳じみて聞こえることは承知のうえだ。 だが、気づけばマスターと共にここへ来ていた……」 「そうか。 わかった」 「……信じて、くれるのか」 「うん」 その言葉に嘘はないことが、エルキドゥにはわかる。 ディルムッドを励ますように大きく頷く。 そもそもおかしなことが多過ぎた。 マスターがいないとわかったとき、最初に疑われたのはサーヴァントだ。 誰かがマスターを連れて行った、そう考えるのが自然だからだ。 しかし、カルデアから消えたサーヴァントはいなかった。 ひとりひとり探して点呼をとったわけではないが、サーヴァントの霊基はシステム管理されている。 それによると、データ上は誰ひとり欠けることなくカルデアの全サーヴァントが揃っていた。 (こんな役割、僕には向いてないと思うんだけど……) とはいえ、目の前で不安げに瞳を揺らすディルムッドを放置するわけにもいかない。 それは想像つくよね。 ありとあらゆる出入口の記録と映像を確認したけど、誰も出て行っていない。 そしてレイシフトの記録も調べた。 でも、レイシフトの記録もなかった」 「なん……と」 そうだよ、とエルキドゥは頷く。 「君が出て行った記録はない。 もちろんマスターもね」 マスターがいなくなって大騒ぎになったけど、君がいなくなった記録はないんだ、とは今は言わない。 ややこしくなるから。 「俺は……。 俺がマスターを拉致してレイアウトしてしまったものとばかり……」 「不思議だよね。 サーヴァントである君はともかく、マスターはいったいどうやってカルデアからここに来たんだろう」 それまで黙っていたギルガメッシュが、斬りつけるように問い質した。 「貴様、どこぞで聖杯の欠片を拾わなかったか」 やや俯くようにして考えこんでいたディルムッドが、一拍遅れて、はっと顔を上げた。 「フン。 して、その欠片に、貴様は何を願った?」 「……俺は……」 「どうした。 カルデアでも解明しきれない能力を秘めた「筋力=?」の力で思い切り引かれ、さしもの英雄王も堪えきれずにたたらを踏む。 バランスを崩したところでさらに手を引かれ、ギルガメッシュは床に座らされてしまった。 「おい! 何をする!」 さすがに抗議の声をあげたギルガメッシュだったが、エルキドゥはそんな彼の顔を両手で挟み、鼻が触れ合いそうなほどに近づけた。 「そんなふうにひとりで立って見下ろしているから、見えるものも見えなくなるんだ。 ここで、落ち着いて、僕と一緒に座って、話をしよう」 「む……」 さあ、ここに座るんだ、と自分の横をパンパンと叩く。 或る意味では庇護すべき対象と思っているエルキドゥからこのように諭されることは、ギルガメッシュにとって面白くない。 しかしその一方で、この世で唯一、対等と認める友からこのように扱われることを、嬉しく思わないわけでもなかった。 不愉快そうに取り繕いながら、内心いそいそとエルキドゥの隣に座す。 (なんと、エルキドゥは猛獣使いのようではないか……) 感嘆するディルムッドだったが、彼は知らない。 或る意味ではエルキドゥのほうが獣に近いことを。 「ごめんよ、ギルは短気だから。 「……昨日……そう、昨日のことだ。 極小特異点を消滅させため、サーヴァント数人でレイシフトした。 そうだ、マスターの同行が必要なほどの事ではなかったのだ。 そこで聖杯の欠片を見つけた。 一筋垂らした前髪が、ゆらりと揺れた。 ゆえに、皆の言葉を聞き、ただ笑っていたのだが……」 自嘲の笑みが端麗な顔に浮かぶ。 「……自分には叶えたい願いがあったろうか、ふと、そう考えた瞬間……それまですっかり忘れていたことを思い出してしまったのだ」 両手で顔を覆った。 ディルムッドは力なく首を振った。 「そうではない。 第四次聖杯戦争において、俺は聖杯を欲してはいなかった。 マスターに信義を尽くしたい、勝利を捧げる名誉を得たい、そのために死力を尽くして戦いたい……それが俺の望みだった。 信じてもらえなかったのだ。 ……いや、マスターだけに原因があったのではない。 俺もまた、マスターを理解する努力を怠った……」 悔悟の念が、輝く美貌を歪ませる。 「その望みを諦めた俺にとっては、騎士王と正々堂々、思う存分戦うこと。 それだけが望みとなった。 「そうだ、思い出した。 俺は……拾った聖杯の小さな欠片に、騎士王との尋常な立合いを望んだ。 その身勝手な執着が、このような特異点を作り上げてしまったのだろう……そしてマスターまで……」 震えが全身に広がった。 血を吐くように、言葉を絞り出す。 再び両膝をついて背を丸めるディルムッドをギルガメッシュが見ている。 (ギルのあんな顔は、珍しいな) ギルガメッシュでさえ同情せざるを得ないほどの何があったのか、そして何を知っているのか、後で訊こう、とエルキドゥは心に書き留める。 ギルガメッシュは感情の読めない声でゆっくりと告げた。 「貴様はふたつの大きな勘違いをしておる。 ここは貴様が作ったものではないわ」 ディルムッドは驚愕に思わず腰を浮かせる。 そして緩やかに遅れてやってきた安堵のためか、声も出ない。 エルキドゥがそっと、中腰のまま固まってしまったディルムッドを座らせた。 「貴様もまた、生贄よ。 蛾のごとく吸い寄せられただけのこと。 「そんな意地の悪い言い方をしていないで、知ってることがあるなら説明してよ。 僕も聞きたい。 マスターも一緒に」 「巻き……込まれた……と……?」 ギシギシと軋む音がしそうな動きで首を回したディルムッドが、なんとかエルキドゥと目を合わせた。 「そうなんじゃないのかな。 ギルはここを作ったのは君じゃないと言った。 そう断言するからには、誰が作ったかも知っているんだろう。 それなら、知らないうちにここへ飛ばされた君のことは、巻き込まれたものと判断するのが妥当じゃないか」 まだ焦点の合わぬ茫洋たる瞳を、ディルムッドが揺らす。 己が仕出かしたことを思い出し、絶望に突き落とされたが、転瞬の間にその淵から掬い上げられたのだ。 まだ理解が追い付かないのだろう。 「ギル? さあ話して」 再び促され、いかにも渋々という態度を隠そうともせずギルガメッシュが口を開く。 「槍兵よ、この特異点は、おそらく終焉が近いのであろう。 「そっか! 誰だかわからないけどここを作った誰かが、聖杯の欠片を引っ張った。 持ってたディルムッドは利用された。 だからマスターが来てしまったのも仕方なかった。 だからディルムッドはお咎めなし、でいいんだよね。 「よかったね、ディルムッド。 君は悪くない」 「ありがとう、エルキドゥ。 感謝する」 喜びにぱあっと顔を輝かせるエルキドゥ。 自分が道具であるという意識が強いためか、人の役に立つことを殊の外、大事にしているのだ。 その嬉しげな様子に思わず頬を緩ませるギルガメッシュだったが、そこは体面を重んじたのか、咳ばらいをひとつして、厳めしい表情を保つ。 ここへはおそらく、『夢渡り』の如き方法にて参ったのであろうよ」 「そうか。 ディルムッドは聖杯戦争のときに戻って騎士王と戦いたかった。 それにつけ込まれて、聖杯の欠片の力でここに来させられた。 結果、現在のマスターである雑種を呼び寄せてしまったのであろう」 「そうか……。 でも、どうしてマスターは身体ごと呼べてしまったのかな?」 「さて、な。 むうっとした顔のエルキドゥがギルガメッシュに詰め寄る。 説明が難しいのだ。 しかも、まだ明かしたくない情報もある。 「この特異点は『冬木市で起こり得る可能性』を全て引き寄せる性質を持つのだ。 どんなに矛盾していようとも、可能性がゼロでなくば起こり得てしまう。 この特異点が消えれば、雑種も貴様もカルデアに戻るであろうよ」 晴れやかに、エルキドゥがディルムッドに笑いかける。 「よかったね。 「どうして?」 「この特異点を消せるのは、只ひとり。 何日くらいで? それもわかっているんでしょう、ギル」 「まあ、長くて4日というところか」 それならまあいいか、と得心した様子のエルキドゥが、ぱんぱんと衣服を叩きつつ立ち上がった。 「まだよくわからないことはあるけど、今はこれ以上は話してくれそうもないし。 「そりゃあ、ディルムッドの心残りを消しに、だよ」 「……エルキドゥ……」 まだ座ったままのディルムッドが、呆けたようにエルキドゥを見上げた。 「フハハハハハハハハ!」 夕方近い校舎の屋上に、王の哄笑が響く。 「槍兵よ、我が友は佳き者であろう!」 「……ああ。 いや、我らが下りねばならぬか」 すっかり上機嫌となったギルガメッシュは、笑いながらふわりと浮き上がり、地上へと下りていく。 残されたふたりのランサーは顔を見合わせ、それに続いた。 [chapter:わくわくざぶーん 序] 転がり出た先は、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景な部屋だった。 「ちょっと! なんなんですか! あなたがたは!」 心ならずも自ら不審者を部屋に引き入れてしまった『手』の持ち主は、サーヴァントふたりを呆れたように見据えた。 「あーあ。 大人の僕ですか……。 今のでわかりました。 大人の僕を『ギル』と呼んで、平手でぺちぺち叩く。 そんなことをしてのける人物に、僕はひとりしか心当たりがありません。 はじめまして」 丁寧に一礼する、少年時代のギルガメッシュ。 便宜上、彼のことは『子ギル』と呼び分ける。 「はじめまして、ギルくん。 僕には、はじめましての気がぜんぜんしないけど」 「ええ、あなたにはそうでしょうね。 僕がどこかであなたと知己を得ていることは識っています。 でもこの霊基はあなたに会ってはいませんから。 その感覚の正体を解析したくてさらに話しかけようとしたところを、ギルガメッシュに遮られる。 「はぁ……。 相変わらずですね、あなたは。 知らんが識っておる。 ねえギルくん、『わくわくさぶーん』って何?」 「まさに今をそれを説明しようとしてたんですけどね……」 ちらりとギルガメッシュを見上げると、再びこれ見よがしの溜め息をついた。 「ふぅ。 ……まあいいでしょう。 簡単に言うと建物の中に温水プールを入れた施設です。 といってもかなり大掛かりで、ウォータースライダーから波のプールまであるんですよ。 ちなみにきのこの滑り台はちびっ子に大人気です」 「へえ! すごいね!」 「ありがとうございます」 目を丸くして感嘆の相槌を打つエルキドゥと、それに対し満足そうに頷く子ギル。 微笑ましい光景を、ギルガメッシュが疑わしそうに眺める。 「おまえ。 『ウォータースライダー』やら『波のプール』やらがわかって感心しておるのか?」 「ううん、ぜんぜん」 「もしやとは思うが……『プール』が何かはわかっておるのか?」 「いいや、まったく」 「……ではなぜ、感心してみせた?」 「ギルくんが褒めて欲しそうにしてたから」 エルキドゥをしばし呆然と見ていた子ギルだったが、ややあって、今までで最も深い溜め息を溢した。 「…………まともそうな人に見えたんですけど……。 そうですか……。 「ところでそんな『わくわくさぶーん』に、ギルくんは何をしに来たのかな?」 「いいえ。 『わくわくさぶーん』は僕が経営しているんです。 ここはオーナールームですよ。 まあ、ご覧の通り、事務仕事するだけの何もない部屋ですけどね」 「フン。 殺風景な部屋だ。 「ギルくんは社長なんだ! 小さいのにすごいねえ。 あ、『社長』が何かは知っているよ」 「ありがとうございます。 でも小さいと言ってもそれは姿だけで、中身はかなり長く生きましたから。 たいしたことではありませんよ」 「でも、このギルは社長なんてできないと思うんだよ」 「まあ……それは確かに」 冷ややかな眼差しがちらりと動く。 どうしてああなってしまったのか、自分でもわからない。 どうにも理解しがたいんですよ」 「おい、おまえたち!」 「そうだろうねえ……」 「不敬であるぞ! いいかげんにせんか!」 「ギルはちょっと黙っててくれないかな。 僕はギルくんと話したいんだよ」 「なっ……」 子ギルの目がきらりと光った。 「……へえぇ」 未だかつて、誰であれ自分にこのような物言いをするのを見聞きしたことがない。 俄然、興味が湧いた。 「なんだか僕はエルキドゥさんとは仲良くなれそうな気がしてきました」 にこにこして子ギルが言う。 「明日は或る人の依頼で貸し切り営業なのですが、大人の僕にとってもまんざら縁のないわけでもない人なのです。 エルキドゥさん、よかったら明日また遊びに来ませんか?」 「ありがとう! ぜひ来たいよ!」 「おい、遊びに来たのではないのだぞ」 「もちろん忘れてなんかいないさ。 どう見ても天然ですね) 幼年体である自分の中にも確かに存在する、エルキドゥを愛おしく思う気持ち。 それはギルガメッシュという英霊には不可欠な要素のひとつなのだろう。 しかし子ギルの中のそれは、まったく実感を伴わず、したがって空疎なものでしかなかった。 だからこそ、興味は尽きなかったともいえよう。 「大人の僕も来たかったら来てもいいですよ。 エルキドゥさんと一緒なら、ですけど。 ひとりではダメです」 「明日だね! わかった。 ギルと一緒に来るよ。 サーヴァントですか?」 「ううん、人間だよ。 僕のマスターなんだ。 また明日ね」 [newpage] [chapter:穂群原学園] 『わくわくざぶーん』の施設から街に出ると、そこは近代的なビルが立ち並ぶ街だった。 エルキドゥは、先ほど落ちながらインプットした街の俯瞰図を頭の中に広げる。 なるほど、ここは川の東側か。 それも、何人も」 「わかるか」 「そりゃあ、わかるよ。 みんな知ってるサーヴァントだ。 霊基パターンが微妙に違う。 変な感じだね」 エルキドゥがくんくんと空気の匂いを嗅ぐ。 そんな仕草をしていると、初めて会った頃のことを思い出す。 まだ獣そのものであった姿をふっと思い出し、ギルガメッシュの背筋が微かにざわりとした。 心を波立たせる懐かしいその感触に、知らず、唇が綻んだ。 「ギル。 とりあえずマスターを」 「うむ。 ……と言っても、もはや探すまでもないがな」 その言葉の通り、立香の魔力はこの街に在ることが明らかだった。 これを辿れば、ほどなく立香は見つかるだろうう。 (それにしても……) レイシフト後に降り立ったあの河原から、物理距離は幾らも離れていない。 しかしあの時は確かに、立香の気配など微塵も感じられなかったのだ。 (これが『魔術的に隔絶している状態』か…) 新たな情報として、エルキドゥは自身にインプットする。 ふたりは周囲の気配を探りつつ、余所目にはのんびりと、歩き出した。 立香の魔力を辿って程なく行き着いたのは、広い庭をもつ建物だった。 「ここにマスターがいるね」 「うむ。 間違いなかろう」 長閑に行き交う生徒たちを、エルキドゥが不思議そうに眺める。 「ここは魔術師の養成所か何かなのかな」 「なぜ、そう思った?」 ギルガメッシュには、エルキドゥの反応がいちいち面白くてたまらない。 生まれ持った資質、さらにはその出自ゆえに、物心ついてより世の中を醒めた目で見続けてきた半神の王。 そんな彼にとって、赤児同然の心をもって己の前に現れたエルキドゥは、常に新鮮な驚きをもたらしてくれる存在だった。 輝くような緑色の目は、純粋な好奇心によって透き通り、それを通して見る世界は、いつでも生命への畏敬と喜びに輝いている。 そんな友が、幾星霜の年月を経てなお、まったく変わらずにいてくれた。 それは無上の喜びだった。 「マスターが同じ服を着ていた。 あれは魔術礼装なんだろう?」 「なるほど。 全員が魔術礼装を着ている、ゆえに全員が魔術師だろうと思った、そういうことか。 でもなぜ、ここの皆は同じ服を着ているんだろう。 同じ服を着た人間がこんなにたくさんいると、少し気持ちが悪いね」 「管理がしやすいのであろうよ。 「同じ服を着せているのは、侵入した部外者を発見しやすくするため、って理由もありそうだね」 なるほど、校庭の生徒たちはもとより、校舎にいる生徒たちまで窓に連なって校門前のふたりを見ていた。 しかしその視線は好奇心と賞賛に溢れており、警戒の色は見られない。 それも奇異なことではあった。 「あ、マスターが僕らに気づいたみたいだよ」 エルキドゥが指す先には、満面の笑顔で手を振りつつ駆け寄ってくる立香がいた。 「……マスター……?」 このような再会は予想だにしていなかった。 いかにも呑気そうな立香に当惑するエルキドゥを身振りで黙らせ、まったくいつもの通りの口調でギルガメッシュが応じる。 「今のところ貴様に用はない。 雑種同士で遊戯に興じるのも久方ぶりだろう。 時がくれば呼ぶゆえ、それまで遊んでいるとよい。 許す」 「わあ! ありがとう! 王様!」 そしてギルガメッシュは、ほんのついでのように、ごく普通の声音で訊いた。 「あれ? さっきまでここで見てくれていたんだけど。 どこ行ったのかなあ……。 ディルムッドだよ、ランサーのディルムッド・オディナ」 「うむ。 そうであったな。 もう行ってよいぞ」 片手で追い払うような仕草に、王様はあいかわらずだなあと立香は苦笑する。 しかしやはり、ギルガメッシュとエルキドゥという強力な味方が来てくれたことが心強いのだろう。 足取り軽く、サッカーをする生徒たちのところへと駆け戻って行った。 「ギル、どういうことだい? 同行したサーヴァントって? 何か知ってたの?」 「知らぬわ。 如何に雑種が図太いとはいえ、ひとりきりでこの地に放り出されたとあらば、もう少し心細そうにしているであろうよ」 「そうだね。 応援に来たのか、って言ってた。 誘拐されたようにも見えなかった」 「うむ。 雑種は通常のミッションで特異点に来たとでも思っているのであろう」 歓声をもって生徒たちに再び迎え入れられる立香。 「……ねえ、ギル。 「助けなきゃいけない状況には見えないねえ……」 「……」 「リツカはカルデアにいるときよりむしろ元気そうだな……」 無言のままのギルガメッシュと並んで、しばし立香を見守った。 夕刻まではまだ少し間がある穏やかな午後。 陽光は僅かにあたたかな色を帯び、校門からは少しずつ生徒が退場していく。 あちらこちらから聞こえる生徒たちの声。 楽器の音。 ボールの音。 そこに、悲鳴や破壊音が混ざることはない。 歪んでいるがゆえに平和な箱庭。 ここにいる限り、立香には、誰かを犠牲にしてでも生き延びねばならない責任がない。 何度か話したことがあるよ」 「では奴の気配はわかるな」 「ここは魔力がぐちゃぐちゃでとってもわかりづらいんだけど……」 風に逆らってエルキドゥの髪が揺れる。 「この建物にいるサーヴァントはふたり。 攻撃してくる気配はない。 ふたりともよく知ってる霊基だけど、ひとりはカルデアのサーヴァントじゃない。 もうひとりはカルデアのサーヴァントだけど、ここにいる影響なのかな、だいぶパターンが変わってしまってる。 ケルト神話においてフィオナ騎士団最強とも謳われた騎士、ディルムッド・オディナだ。 「説明せよ。 ……いや、この場合、釈明があるならば聞いてやろう、と言うべきか」 ふわり。 「ねえ、ディルムッドはここにどうやって来たの? 僕たちはレイシフトして来たんだけど」 威圧するギルガメッシュと対照的に、微塵の緊張感もないエルキドゥ。 どちらのテンションに合わせるべきか、ディルムッドが戸惑う。 「ああ、ギルのことは気にしなくていいよ。 怒ってるわけじゃないから。 でもあれで自覚はないんだ、困ったことに」 まるで、うちの子ったら噛み癖が治らなくてと嘆いているような口調に、さらに困惑するディルムッド。 救いを求めギルガメッシュを見上げるが、フンと鼻を鳴らすと横を向かれてしまった。 「それが……。 たいへん情けないことに、よく覚えていないのだ……」 「自分とマスターがどうしてここに来ちゃったか、よくわからないってこと?」 きょとん、と首を傾げるエルキドゥ。 「……言い訳じみて聞こえることは承知のうえだ。 だが、気づけばマスターと共にここへ来ていた……」 「そうか。 わかった」 「……信じて、くれるのか」 「うん」 その言葉に嘘はないことが、エルキドゥにはわかる。 ディルムッドを励ますように大きく頷く。 そもそもおかしなことが多過ぎた。 マスターがいないとわかったとき、最初に疑われたのはサーヴァントだ。 誰かがマスターを連れて行った、そう考えるのが自然だからだ。 しかし、カルデアから消えたサーヴァントはいなかった。 ひとりひとり探して点呼をとったわけではないが、サーヴァントの霊基はシステム管理されている。 それによると、データ上は誰ひとり欠けることなくカルデアの全サーヴァントが揃っていた。 (こんな役割、僕には向いてないと思うんだけど……) とはいえ、目の前で不安げに瞳を揺らすディルムッドを放置するわけにもいかない。 それは想像つくよね。 ありとあらゆる出入口の記録と映像を確認したけど、誰も出て行っていない。 そしてレイシフトの記録も調べた。 でも、レイシフトの記録もなかった」 「なん……と」 そうだよ、とエルキドゥは頷く。 「君が出て行った記録はない。 もちろんマスターもね」 マスターがいなくなって大騒ぎになったけど、君がいなくなった記録はないんだ、とは今は言わない。 ややこしくなるから。 「俺は……。 俺がマスターを拉致してレイアウトしてしまったものとばかり……」 「不思議だよね。 サーヴァントである君はともかく、マスターはいったいどうやってカルデアからここに来たんだろう」 それまで黙っていたギルガメッシュが、斬りつけるように問い質した。 「貴様、どこぞで聖杯の欠片を拾わなかったか」 やや俯くようにして考えこんでいたディルムッドが、一拍遅れて、はっと顔を上げた。 「フン。 して、その欠片に、貴様は何を願った?」 「……俺は……」 「どうした。 カルデアでも解明しきれない能力を秘めた「筋力=?」の力で思い切り引かれ、さしもの英雄王も堪えきれずにたたらを踏む。 バランスを崩したところでさらに手を引かれ、ギルガメッシュは床に座らされてしまった。 「おい! 何をする!」 さすがに抗議の声をあげたギルガメッシュだったが、エルキドゥはそんな彼の顔を両手で挟み、鼻が触れ合いそうなほどに近づけた。 「そんなふうにひとりで立って見下ろしているから、見えるものも見えなくなるんだ。 ここで、落ち着いて、僕と一緒に座って、話をしよう」 「む……」 さあ、ここに座るんだ、と自分の横をパンパンと叩く。 或る意味では庇護すべき対象と思っているエルキドゥからこのように諭されることは、ギルガメッシュにとって面白くない。 しかしその一方で、この世で唯一、対等と認める友からこのように扱われることを、嬉しく思わないわけでもなかった。 不愉快そうに取り繕いながら、内心いそいそとエルキドゥの隣に座す。 (なんと、エルキドゥは猛獣使いのようではないか……) 感嘆するディルムッドだったが、彼は知らない。 或る意味ではエルキドゥのほうが獣に近いことを。 「ごめんよ、ギルは短気だから。 「……昨日……そう、昨日のことだ。 極小特異点を消滅させため、サーヴァント数人でレイシフトした。 そうだ、マスターの同行が必要なほどの事ではなかったのだ。 そこで聖杯の欠片を見つけた。 一筋垂らした前髪が、ゆらりと揺れた。 ゆえに、皆の言葉を聞き、ただ笑っていたのだが……」 自嘲の笑みが端麗な顔に浮かぶ。 「……自分には叶えたい願いがあったろうか、ふと、そう考えた瞬間……それまですっかり忘れていたことを思い出してしまったのだ」 両手で顔を覆った。 ディルムッドは力なく首を振った。 「そうではない。 第四次聖杯戦争において、俺は聖杯を欲してはいなかった。 マスターに信義を尽くしたい、勝利を捧げる名誉を得たい、そのために死力を尽くして戦いたい……それが俺の望みだった。 信じてもらえなかったのだ。 ……いや、マスターだけに原因があったのではない。 俺もまた、マスターを理解する努力を怠った……」 悔悟の念が、輝く美貌を歪ませる。 「その望みを諦めた俺にとっては、騎士王と正々堂々、思う存分戦うこと。 それだけが望みとなった。 「そうだ、思い出した。 俺は……拾った聖杯の小さな欠片に、騎士王との尋常な立合いを望んだ。 その身勝手な執着が、このような特異点を作り上げてしまったのだろう……そしてマスターまで……」 震えが全身に広がった。 血を吐くように、言葉を絞り出す。 再び両膝をついて背を丸めるディルムッドをギルガメッシュが見ている。 (ギルのあんな顔は、珍しいな) ギルガメッシュでさえ同情せざるを得ないほどの何があったのか、そして何を知っているのか、後で訊こう、とエルキドゥは心に書き留める。 ギルガメッシュは感情の読めない声でゆっくりと告げた。 「貴様はふたつの大きな勘違いをしておる。 ここは貴様が作ったものではないわ」 ディルムッドは驚愕に思わず腰を浮かせる。 そして緩やかに遅れてやってきた安堵のためか、声も出ない。 エルキドゥがそっと、中腰のまま固まってしまったディルムッドを座らせた。 「貴様もまた、生贄よ。 蛾のごとく吸い寄せられただけのこと。 「そんな意地の悪い言い方をしていないで、知ってることがあるなら説明してよ。 僕も聞きたい。 マスターも一緒に」 「巻き……込まれた……と……?」 ギシギシと軋む音がしそうな動きで首を回したディルムッドが、なんとかエルキドゥと目を合わせた。 「そうなんじゃないのかな。 ギルはここを作ったのは君じゃないと言った。 そう断言するからには、誰が作ったかも知っているんだろう。 それなら、知らないうちにここへ飛ばされた君のことは、巻き込まれたものと判断するのが妥当じゃないか」 まだ焦点の合わぬ茫洋たる瞳を、ディルムッドが揺らす。 己が仕出かしたことを思い出し、絶望に突き落とされたが、転瞬の間にその淵から掬い上げられたのだ。 まだ理解が追い付かないのだろう。 「ギル? さあ話して」 再び促され、いかにも渋々という態度を隠そうともせずギルガメッシュが口を開く。 「槍兵よ、この特異点は、おそらく終焉が近いのであろう。 「そっか! 誰だかわからないけどここを作った誰かが、聖杯の欠片を引っ張った。 持ってたディルムッドは利用された。 だからマスターが来てしまったのも仕方なかった。 だからディルムッドはお咎めなし、でいいんだよね。 「よかったね、ディルムッド。 君は悪くない」 「ありがとう、エルキドゥ。 感謝する」 喜びにぱあっと顔を輝かせるエルキドゥ。 自分が道具であるという意識が強いためか、人の役に立つことを殊の外、大事にしているのだ。 その嬉しげな様子に思わず頬を緩ませるギルガメッシュだったが、そこは体面を重んじたのか、咳ばらいをひとつして、厳めしい表情を保つ。 ここへはおそらく、『夢渡り』の如き方法にて参ったのであろうよ」 「そうか。 ディルムッドは聖杯戦争のときに戻って騎士王と戦いたかった。 それにつけ込まれて、聖杯の欠片の力でここに来させられた。 結果、現在のマスターである雑種を呼び寄せてしまったのであろう」 「そうか……。 でも、どうしてマスターは身体ごと呼べてしまったのかな?」 「さて、な。 むうっとした顔のエルキドゥがギルガメッシュに詰め寄る。 説明が難しいのだ。 しかも、まだ明かしたくない情報もある。 「この特異点は『冬木市で起こり得る可能性』を全て引き寄せる性質を持つのだ。 どんなに矛盾していようとも、可能性がゼロでなくば起こり得てしまう。 この特異点が消えれば、雑種も貴様もカルデアに戻るであろうよ」 晴れやかに、エルキドゥがディルムッドに笑いかける。 「よかったね。 「どうして?」 「この特異点を消せるのは、只ひとり。 何日くらいで? それもわかっているんでしょう、ギル」 「まあ、長くて4日というところか」 それならまあいいか、と得心した様子のエルキドゥが、ぱんぱんと衣服を叩きつつ立ち上がった。 「まだよくわからないことはあるけど、今はこれ以上は話してくれそうもないし。 「そりゃあ、ディルムッドの心残りを消しに、だよ」 「……エルキドゥ……」 まだ座ったままのディルムッドが、呆けたようにエルキドゥを見上げた。 「フハハハハハハハハ!」 夕方近い校舎の屋上に、王の哄笑が響く。 「槍兵よ、我が友は佳き者であろう!」 「……ああ。 いや、我らが下りねばならぬか」 すっかり上機嫌となったギルガメッシュは、笑いながらふわりと浮き上がり、地上へと下りていく。 残されたふたりのランサーは顔を見合わせ、それに続いた。

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【FGO】エルキドゥに余所余所しくなってしまうギルガメッシュ漫画

ギルガメッシュ エルキドゥ

ちなみに、ギルガメッシュの宝具の別名であるエアはエヌマエリシュに出て来る神の名前で、天地を分けた神とされています。 天地というのは空と大地というより神の世界と人の世界を表しており、それを分けた事で人間と神が別々に生きていくきっかけになりました。 その世界を分けた一撃がエヌマエリシュという宝具の攻撃だとされています。 そして、人間が生きていく上で神の助けは必要ないとし、完全に袂を分かったのがギルガメッシュです。 つまり、エアが最初にきっかけを作り、それをやり遂げたのがギルガメッシュなんです。 また、エルキドゥは神と袂を分かとうとしたギルガメッシュを殺し、神と人の世界を繋ぎ止める為に生みだされました。 彼とギルガメッシュの関係はエヌマエリシュに描かれているティアマト神とその息子の神々の戦いに類似した部分があります。 だからこちらの名前もエヌマエリシュなんでしょう。 というか、そもそもこの名は二人が勝手に付けただけの可能性が高く、本来の意味の真名解放とは微妙にニュアンスが違うと考えられます。 本来であれば武器や自身の伝承の名前をそのまま冠するのが宝具の真名解放ですが、ギルガメッシュの場合はエアと便宜上呼んでいる無銘の剣の最大出力、エルキドゥに至っては存在自体が対ギルガメッシュに作られた宝具である自身の最大出力の一撃をエヌマ・エリシュと呼んでいるのであり、元になる武器や自身に纏わる伝承の名称が存在しないのです。 実際、fgo 7章ではエルキドゥの身体を乗っ取って作られたキングゥという敵キャラが出て来ますが、エヌマと全く同じ内容であるにも関わらず宝具名は「ナンム・ドゥルアンキ」と変わっており、しかも最終的に改心してこっちの味方についた時は「エヌマ・エリシュ」に戻っていました。 時系列的に、既にエヌマ・エリシュの名付けていたギルガメッシュのをエルキドゥが真似たか、或いはギルガメッシュの方が友に同じ名を贈ったのだと考えられます。

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